灰空その下



雨。
気付けば雨だった。
それが好きなのかと問うた時、彼は「別に」と素っ気無く応えた。それを覚えている。
しかし、互いが互いの側の情報を得る為、人目を忍んで顔を合わせるときは
決まって雨の匂いが漂っていた。

仰いだ空は雲に覆われている。
灰色。それをひたすらに眺めていた。
佇むは林の中。
誰の気配もない。
彼が指定をする場所。それは状況によってめくるめく変わりはしたものの、メルトキオの外れであるこの場には何度も足を運んだ。
曰く、此処が一番楽なのだという。
場所も時刻も一方的に決めてしまうくせに、必ず彼は私よりも遅れて来る。
それでは幾ら人気を集めてもすぐに醒められてしまうだろう。そう厭味を口にした私へと笑み、"アンタにだけだから"と馬鹿げたことを言っていた彼は。
今回も、……遅い。

何時ものことではある。
しかし、何時になったらやって来るというのだろう。
冷えた指先が、悴んでしまうほどで
それでもやはり誰の気配もない。
やがて訪れた時、どう文句を告げようか。
言い過ぎてしまうと子どものように拗ねだすのだから、程ほどに。それでいて、次こそは時刻どおり来るように言い聞かせなくては。
私とて暇人ではない。
ロイドに生き延びることを諭された今。ミトスに刃を向け、それを退けた今。
私は私の成すべき事を。……それしきで償えるものだとも思ってはいないが。
なのだから、早く。

「………何を待ってるんだ?」

声がした。彼、のものでは、ない。
その主は木にもたれかかる私のその背後に居るようだった。
何者かに見つかってしまったが、…まあ、いい。
雨の匂い。
雨が訪れる。
それを待つ。彼を待っている。
私は。

「ゼロスは、……来ないぜ…?」

待つ。待っている。

雨。

(待チ人ハ来ズ)




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