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手を伸ばし、触れる。触れて、捉える。捉えて、追い込んで、逃げられなくする。
部屋の中でひとりぱらぱらと本の頁をめくっていたクラトスは俺さまのいきなりの行動にとても驚いたようだった。
目を白黒とさせながら、されるがまま壁に押し付けられている。
その肩を強く抑え付けつつ、片手を白いそいつの首にそうっと伸ばした。吸い付いてくるような皮膚に薄く笑う。随分と伸びた爪を、立てる。
「っ…ゼロス」
「なに? 天使サマ」
疑問の色を滲ませた瞳に気付きながら、何も知らないふりをした。かり…と肌を引っ掻き、白い跡が、段々と仄赤くなっていく様を見つめる。
面白い。
両の手の指をその首に添える。きつく締め上げる、それだけで容易に命を奪うことができるんだろう。
今ならきっと。
「っ………」
殺しちまいたいくらい、好き。
ぐ、と指先に力を込めた。









「―――それで、結局お前は何がしたかったのだ?」
「んー? いやさあ」
目前にはテーブル。向かい合うようにして座った形。
白い首をほんの少し赤くさせた天使さまが訝しげな表情で問いかけてくる。
「あんた、何をどうしたらビックリするかよく分かんなかったから。本気な目して殺しにかかりゃ少しは驚くかなと」
「…またそんなつまらぬことを」
「知ってる? 今日は人に嘘をついてもいい日なんだぜ。でも他に女が出来たとか別れようとか、あんたあんまり反応してくれそうにないし。その上、しっかり真に受けそう」
「……それだから殺すような素振りをしたのか? なかなか悪趣味だな」
「褒めても何も出てこないぜー? …まあでも、頑張ったわりに反応薄かったけどね、あんた」
頑張って真面目になってみたんだけどなあ。なんてぼやきながらため息を吐く。
テーブルに肘をつきながら、ふと思ったことが口をついた。
「しかしさ、ビックリしないにしろ、抵抗ぐらいはしたほうが良かったんじゃない? あれは冗談だったからいいけど、本気ならやばかったんじゃね?」
「そうだな」
………それだけなのか。落ち着いてるのかズレてんのか、何だかよく分からない。
無いとは思いたいもんだが、まさか他の奴に対してもあんな感じなんじゃないだろうな。…まあ、他人に首を絞められるなんて場面自体、そうそうあるもんじゃねえけど。
俺さまの、大丈夫かこいつ…的な視線を感じ取ったのだろうか、天使さまは少し居心地悪そうに視線を泳がせた。
「相手がお前でなければ抵抗した」
「…へえ。そう? まあ、そーだと信じたいけど?」
「………お前にならばどうされても構わないと思っているだけだ」
「へーそう……… え?」
どうせなんか言い訳してるんだろうと受け流しかけた言葉が頭の中に戻ってくる。
えっとそれはつまり? どーいうこと?
「…嘘だ」
「へ…?」
「嘘をついて良い日なんだろう?」
「………」
そりゃまあ、そーではありますけど。
目を逸らして真っ赤な顔して嘘宣言しても、そうは思えないというか。
誤魔化しがヘタだな。としか思えないわけで。
「…あんたってホント面白いな。どーにかしちまいたいくらい、可愛い」
「……それも嘘か?」
「や、嘘ついていいのは一回だけなの。…多分」
「………」

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4/1にmemoにて書いたちょっとしたお話。




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