死を求めた。
結果的にそれは、誰にも――何にも受け入れられることはなく、潰えるだけに終わったが。
逃げたかったのだ。逃げようとしたのだ。他には何もない。大した理由などない。死んでしまいたかった。
それでも、…私は今、こうして生きている。裏切り、敵対したはずの者達と、こうして。
それを願ったのは他でもない私自身だ。無様にも逃げ果せることすら出来なかったのだ、せめて今、出来うる事を。
その為ならば数多から裏切り者が図々しくも戻ってきたのだと蔑まれても構わぬ。いや、むしろ当然のことだと思った。
然し彼らはそれすらも否定するかのように、私の名を呼ぶ。話し相手が私であろうと笑みを浮かばせ、当然のように受け答えをし、手を差し伸べてくれるのだ。
それに、躊躇う。

皆が寝静まる頃合いを見計らい、深夜に宿を抜け出した。何処へ行く宛てがあるわけでもなく、ひたすらに街灯を避け、やがて町外へと。
足先が赴くがままに進んだ先は、森。暗がりの中、奥へと進み、樹木に凭れて息をつく。
身体の何処も彼処もが重たく感じる。日に日に増してゆくようなそれに焦りが募らぬわけもない。
基本的に睡眠が不要でも眠ろうとすれば成せなくはないが、近頃はそれにすら気が向かなかった。努力をしなければ眠れぬことを苦痛だと思うのは久方ぶりだ。
……思考が脳裏を廻る。答えのないものばかりが過ぎっては、やがて戻り来る。かすかに痛む頭を庇うようにして、半ば無意識的に片手を額にあてた。
ため息をつく。息苦しい。
「アンタもつくづく馬鹿だねえ」
背を預けている樹の、その向こう側―――場違いにも思えるほどの明るい声が響き渡る。
先ほどから姿を見せる素振りもなく、それでいてその気配を隠そうともしていないそれは、笑う。
「大人しくどっかで待ってりゃ今よりはマシだったんじゃねえの?」
その言葉を、否定する術もない。もう、わからないのだ。それが本音なのだ。
私は何をするべきだったのか。何をするべきなのか。それを他人に求めたところで答えなど出なく、しかしそれは自らの中にすら存在しない。
『―――古代大戦の勇者クラトスを、』
あの日、ロイドは私を赦すと言った。裏切り者としての私を討ち、そして古代より生きた私として赦すのだと。…それで罪が消えるわけではない。その筈がないのだ。
「ホント根っから暗いな、アンタ。俺サマがこーゆーのも言うのもアレだけど、ひねくれ過ぎ」
許されるべきではない。
…私は。
「アンタはロイド君たちに許されてる。…それが怖えンだろ?」
私は、逃げようとしたのだ。大切だと思うものを何一つ護れもせず、数多を巻き込み、犠牲にして、挙句に逃げようとしたのだ。
憎まれて然るべきなのだ、それ以上も以下もない。それでいて彼らは何故、愚かな男を許そうとする。何故受け入れようとするのだ。
解らない。
「―――ざまあねえや」
それは、嗤う。ひどく上機嫌そうに。
瞼を閉じた。腕を組むその傍らで肌の上に爪を立てる。…ああ、ああ。

「まァ俺サマはアンタなんて大ッ嫌いだから。許してやるつもりなんて微塵にも無ェ」
明るい声色は震えている。ああ、私は誰にも許される資格など無い。おまえはきっと傷ついてくれているのだろう、…私はおまえを傷つけている。
それでいてもなお彼は私に言葉をくれるのだ。
彼だけが、その声で。

「俺が何時まででも憎んでいてやるよ」
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -