此処に来たばかりの頃は、そこまで意識していたワケでもなかったけど
仕事や集団生活にも慣れて来たその頃から、段々とそれを目で追いかけるようになった。
些細な動作で揺れる、鳶色の髪。長い前髪に隠されがちな整った顔立ちと、瞳。
突き刺してくるような厳しい意見を零すその口は、けれど意外なくらいにやさしい声色を放つこともあって、
そいつのことは、知れば知るほどに、よく分からなくなってくるような気さえするけど。
「…ユーリ? どうかしたんですか」
「あ、いや……」
お姫さまの声に、我に返る。
首を横に振りながら、さりげに腹黒いと噂のギルドリーダーの目前で、何やら話をしているらしいそいつから視線を逸らした。

気になる。
ただ、気になるから。そいつの姿を見かけたとき、思わずそれをじいっと見てしまう。
その理由を捜そうとする度、真っ先に思い浮かぶのは、いつだかのあいつの物珍しい笑み。
まともに会話を交わしたことは、決して初めてではなかったけど
笑ったところを見たのはアレが初めてだった。
あの時、そいつのその表情を見て、どきりと胸が高鳴ったのは事実。
あの日から、そいつを気にし始めたというのも、…事実。
それが一体なんなのか。正直言えば、認めたくないという気持ちもあったりするんだが、
そんな気持ちだけで何とも思わなくなるほど、単純でもない。
部屋のある場所も全然違うし、仕事でも一緒になることはあまりないし、それだからその姿を見ることもなく終わる日もあるけれど
そんな時ですら、暇さえありゃあそいつの姿が頭に浮かぶ。
向こうは絶対にこんなことないんだろうな。不公平だ、と、それこそ不公平に文句を零したくもなる。
……不公平だ。

その日、姿の見えないお姫様を探して、船内中をうろうろしている時に
また、視界の端で、そいつのものらしい鳶色が揺れた。
ぴたりと歩みを止める。半ば無意識的にそっちを見れば、廊下の端っこの方にやっぱりそいつがいて。
それの目前には、ディセンダー(であるらしい子供)が、何やら笑っている。何を話してるかなんて知らねえけど、何やら会話をしているらしい。
「―――……」
そんな中、本当に、不意、に。
無愛想なクラトスの表情が、微かに綻んだことに気付いてしまった。
どうしてか分からないままに、ただカチンときて
いっそ声を掛けてしまおうかと、足を一歩踏み出したけれど。
「っ………」
くるりと、背を向ける。そのまま足早に立ち去った。
用なんてなにもないのに、声を掛けるだなんて面倒臭いやつだと思われてしまうかもしれないし
いや、実際のところそんなのはただの言い訳で、ただ単に勇気がなかっただけ。……それだけだった。


「……ユーリ? どうかしたんですか…?」
「…あー、…いや。なんでもねえよ」
その後、無事に見つかったお姫さまと何気ない会話を交わすその中で
どうやらまた、ぼうっとしてしまっていたらしい。
気遣うような声に首を横に振り、なんだっけ、と話題を戻しながら、…それでも。
焦燥感にも似た不安が、ため息を引き連れてくる。


02.きっかけを掴めない不安
(その上、焦燥感)
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