テーブルの上。頬杖をつき、じいっと見つめる。
開けられた窓から入り込んでくる風が、つんと跳ねた鳶色の髪を揺らしている。
宿屋の、寝室。穏やかな昼時。眠くなるほどにあたたかい気温の中。
ろくに減ってもいない紅茶を手前に放置したまま、半ばぼんやりと、向こうのベッドの上に座っているそいつを見つめる。
そいつを囲むようにして立っている、ロイドとがきんちょの声が、無駄に広い部屋中に響いている。
思わずため息を零した。
時間だけが無下に過ぎていく。

すかした笑い方をするし、偉そうなことも言うし、そのくせ全てをひとりで背負おうとするいけ好かねえヤツだけど、
何だかんだ言ってそいつはこのパーティの中でとても頼りにされていたりする、"人気者"だ。
自分から口を開くことなんかあまりないクセに、頻繁にメンバーの誰かに話しかけられたりしていて、話しかけられたとなっちゃあ黙っているわけにはいかないのか、決して口数は多くないけどそれなりに話をして。
意外と、表情を変えるし。何気ない一言にこっそりと傷ついたりしていたりすることも、知っている。
"クルシスの天使"だなんて大きな肩書きの裏に隠されているものの、よくよく考えてみると、結構人間らしい一面もあったりする。
嫌いで嫌いで仕方がなかったそいつのことを、…いったい何時から。こう、意識するようになったのか。
考えてみても、よく分からない。

いっそ居なくなっちまえとすら思っていたはずのそれが、次第に"失いたくない"という言葉に変化していって
それに気付き始めたその頃から、自分ではどうしようもないくらいの―――重苦しい、胸の痛みを知った。
馬鹿馬鹿しい。そう否定しようとすればするほど、想いは却って脹れていくばかりで。
自分でも、持て余し気味だ。
そんな余計な意識に憚れて、ということもあるのかもしれない。三人で(といってもまあ、正確にはロイドとがきんちょが、かもしれないが)何やら盛り上がっている傍ら、それに口を出すことができない。
ロイドやがきんちょだけが相手なら、こう思うこともないのに。そこに、天使さまがいるから。無闇に会話をしようとすると、余計なことまで口にしちまいそうで、憚られる。
好き。それだから、それに応えてくれ。など。
今更そんなことを言えるわけがない。
今まで散々目の敵にしてきたのだ。あいつはこっちがムカツクほどに気にしていない様子だったけど、実際それをどう思ってるかなんて分からない。
―――初めて。本当に初めて、心の底から他人が好きだと思えた。"信頼している"とは、また違う。信じられるやつなら、他にもいるけど。好きだから、それに応えて欲しいとまで思えるような存在は、他には。
だからこそ、それを否定されるのは…きつい。
「それでさあコレットが池に落ちて。まあ、すごく浅かったから溺れたりはしなかったけど」
「……それは災難だったな」
「その後、慌てたロイドがコレットを助けようとして、二人してびしょぬれになってね。あれ、結構面白かったよ」
些細な会話。それにやんわりと笑みを浮かべる、天使さまの横顔。
それを俺は、…見つめるだけ。告げたい気持ちを、此処で想っているだけ。
其れでも拒絶されるよかは、ましだと思えてくる。

やがて嵐が去っていくかのように、騒がしいのが部屋の外に消えていく。
疲れた、と、何もしてない癖に思った。せっかくの休憩だし、このまま寝てしまおうかと考える。
「……ゼロス」
席を立ったのとほぼ同時に呼びかけられ、思わず息が詰まった。
何、と思わず不機嫌そうな声で応じてしまったことに後悔しながら、そいつの言葉を待つ。
「具合でも悪いのか…?」
気遣うような視線と、声。「いや、別に」と素っ気無く答える。
「アンタこそどーなのよ? マナを解放する、なんてコトやっておいて、よく動けるじゃねえの」
自分から話題をずらす。そんな意味合いも込めての問い返しに、そいつは一瞬、表情を暗くさせて
結局、そうだな、と。曖昧な返事をしながら、微かに笑った。


04.見つめるだけ、想うだけ
(でも、それだけじゃあ足りない)
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