つれづれ | ナノ

07/28(Thu):バーサスとか、短編とか


やりたいと思うようなことも、誰々と遊ぶとかなんとかということも、特に無い。そんな休日だった。それでも、だからと言って本当に何にもしない、というのもなんだか落ち着けない。それだから昼休み時を狙って、携帯でメールを作成した。
アドレスから相手を選び、それへと送信する。きっと、タイミングが本当に良かったんだろう。すぐさま、とは言い辛くても、その人にしては随分と早めに返事が来た。
………電話で。
「もしもし。クラトス?」
『……ロイド』
落ち着いた、低い声。メールで返してくれればいいのに、と笑いながら言う俺に、ほんの少し戸惑うかのような、申し訳なさげなような声を零したその人は
それでもこっちが送ったものの内容にはしっかりと目を通してくれたらしく、やがてそれへと話題を移してくれた。

一日で一番暑くなる時間帯。それを避けつつ、布製の大きめな袋を片手にスーパーへと向かう。当番制で交互に回していて、今日はクラトスの番だったそれを、暇だし丁度いいからと言って変わってもらった。若干、申し訳なさそうな声色のままのクラトスから買わなきゃいけないものを聞いて、今日の夜飯の材料も買って。
ついでに好きなアイスでも買ってこうかなと、それらが並べられている棚を探している時。
―――何気ない、親子。それに何となく目を奪われた。

今現在、二人暮しをしているアパート。その、キッチンに立ちながら
ただただぼんやりと、考えていた。
クラトスが俺の実の父親であること。それを知ったのは、半年くらい前だ。自分の親父が義父だってことは知っていたけれど、いざそれを目前にしたとなれば、まあ確かに衝撃的だった気がする。
それでも、それだって超えてしまえば。後はただ、何とも言えないような想いが、時々込み上げてくる。それだけだった。
例えば、薄っすらとしか、記憶に残っていなくても。確かに覚えている、クラトスと俺と…母さんとの思い出は
傍から見るだけでもよく分かる、とても仲が良くて幸せそうなあの親子に、負けてしまわないくらい―――穏やかで、幸せな日々だった。
それをふとした拍子に思い出して、…何とも言えない、それでいて何となく嬉しいような。そんな気分になる。
「…お。クラトス。帰ったんなら、ただいま、だろ?」
「…ああ…、そうだったな。ただいま、ロイド」
「おかえり」
帰ってきたのに何も言おうとしない、というかどうしても忘れてしまうらしいクラトスにそれを指摘しつつ、包丁を手にしていた、濡れた自分の手をしっかりと洗う。
はたと思い出したかのように今更なことを言う、そんなそいつに思わず笑ってしまいながら、すぐ其処に置いた皿を手に取った。
リビング、そのソファの上に鞄を置き、立ったままネクタイを緩めているクラトスに近づく。そいつがこっちに振り向いた、その時を狙って、皿の中に入れたフォーク付きの赤い色をクラトスの口元へとそっと運んでみた。
「っ……?」
わけも分からないまま、それでも半ば強引なそれに戸惑っているばかりのクラトスの口の中へ、それを放り込む。
しっかりと種を取った、真っ赤な色の、スイカ。
「………」
「甘くてうめえだろ? 安かったから買ってきたんだけど、これだったら正解だよな」
「………そう、だな」
しゃりしゃりとそれを噛み砕き、やがて飲み込んだらしいクラトスが、少し呆れたような顔をして頷く。
それでも、それに十分に満足した。




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