つれづれ | ナノ

06/25(Sat):明日くらいに


随分と唐突に訪れた。今年に入ってはじめての猛暑。未だに梅雨時の肌寒さを引きずっている身体が音を上げるまでに、そう時間は掛からなかったように思う。
折角の休日、折角の二人きり。行きたいところを問うた時、"ならば本が見たい"と答えたクラトスの後についていく最中で、あまりの暑さに視界はくらくらと揺れていた。
ようやく辿りついた店のその中は涼しいものの、体のあちこちに散らばっちまったらしい疲労感はどうにもならない。座って待っててくれればいい、と気を遣ってくれるそいつに、せっかくのデートなのに悪ィな、なんて余裕ぶった返答をしつつ、その言葉に甘える形で店の中央付近に設置された長椅子に腰掛けていた。

その帰り。昼過ぎの外は先ほどよりも蒸し暑く、自宅へ向かおうとする足取りもひどく重たい。そんな俺さまとは対照的なほどに、クラトスは涼しげな顔を崩さなかった。
至って普段通りに道を歩み、本来真っ直ぐ行くべきところを、―――何故か右に曲がる。建物の角が邪魔してその後ろ姿が見えなくなり、焦ってそれを追った。
「おーい、道間違えてねえ?」
「…いや。少しばかり休憩を取ろうと思ってな」
お前さえ良ければだが。と、付け加えたそいつの目前には、喫茶店らしき小型の建物。首を横に振る、……わけもない。

「あー…なんでこんなに暑いんだろーなあ…」
「夏になるのだから当然だろう?」
「まあ、そりゃそーだけどさあ」
クーラーの効いた店の、片隅。飲み物を注文したその後で、目前のテーブルにぐったりとうつ伏せる。
暑い。流石に、堪える。これから、夏が終わるまでほぼずっとこれが続くのだろう。そう考えれば考えるほどに憂鬱になってくる。
そんな俺さま以上に暑い寒いに弱い筈のこいつは、なんでこんなにも元気そうなんだろうか。
「何買ったの?」
「ん…?」
「本」
白い両腕に大事そうに抱えられたままの、薄茶色の紙袋。それをじっと見つめながら、なんとなく尋ねてみる。
俺さまのほうで買おうと思ってたのに。あまりにそれを断るから、結局こっちが折れた。その際、ちょこっと目にした本は随分と分厚く、その表紙にもなんだかぱっとしない言葉が並べられていたような記憶がある。
「ああ、これは―――」
問い掛けに簡潔に答えながら、その整った顔が勿体無いくらいに無愛想が目立つ表情を、静かに緩ませる。
そんな可愛らしいことをするのにいっそ呆れて、頬杖をつきつつ"結構前から欲しいと思ってはいた"という本の話をまた持ちかけてみた。
正直に言えば俺さま自身はそれに興味がない。漫画とかなら話はまた別だけど、びっしりと文字の詰まった終わりも見えないようなのを、学業等以外の場面で進んで読もうとは思えない。
それに対してクラトスは、どんな時でも暇さえあれば小難しい本ばかりを手に取り、それに入り浸っている。理解し辛くはあるけど、本人にとってはとても楽しいことなんだろう。
でなきゃ、買った本の話に―――ここまで嬉しそうな顔はしない。
「お待たせいたしました」
短い言葉と共に、頼んでいたものがテーブルに置かれる。間違いはないかという確認に、礼儀正しく応じるそいつの表情は、あっという間に普段の無愛想なものに戻っていたけれど。
(まあ……行ってよかったな)
窓の外へと視線を向ける。其処はやっぱり暑そうでいたけど、わざわざ出てきたことに後悔は抱かなかった。

夏の迎え始め、そんな休日。


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互いに学生だという設定で。もう夏ですね。





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