──視える“モノ”





司には他人には凡そ視えない“モノ”が視える。
それは日常茶飯事で、あの黒髪の女のように不意をついてはっきり視えることもしばしばだ。

多くの人に視えない『彼ら』には一定の形がない。
ある時は霞のように曖昧な輪郭で漂い、ある時は人のように明確な形をもって一ヶ所に留まる。
現れる場所も様々で、土地に縛られる時もあれば、人に絡まる時もある。

『彼ら』が一体何なのか───

実際の所司にもよく分からない。
時に人は『彼ら』を『幽霊』や『妖怪』と呼び、はたまた『神』と呼び区別する。
生きているのかと問われれば、そうとも言えるし、否とも言える。

ただ一つ言えるのは、
彼らが“人”ではない、ということだ。





「春日君、」


呼ばれてはっと我に返る。


「シドさん、まだ帰ってきてませんか?」


何でもないように司は質問で返す。
視界に入り込む長い黒髪に目を逸らして。


「さっきそろそろ戻るって連絡は貰ったんだけどね。また煙草でも吹かしているんじゃないかな」


苦笑いをしながら宮白は奧に鎮座するデスクへと足を進める。
肩の黒髪の女は宮白の動きに合わせてふっと顔を下げた――ように視えた。
その顔がはっきりと視える訳ではないが、何処か漂う物悲しさを司は感じた。

いつもそう。
彼女は憂いを含んで宮白の肩に寄り掛かる。






司とて『彼ら』が物心ついた時から視えていたわけではない。
むしろはっきり視えるのは姉の咲夜の方で、昔は気配すら感じなかった。
いつもそれを感じるのは咲夜の言動の僅かな変化を察した結果であり、司自身は存在すら把握できていなかった。
それが視えるようになったのは今から三年前になる。



そして、家族を失ってからも三年が経っていた。



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