──八月五日・悪夢の終演





司の記憶はそこからない。
気付けば見知らぬ天井を見つめていた。

あの日から一ヵ月後のことだった。





  * * * * * * * *



次の記憶は家ではなく病院だった。
消毒液の独特の匂いに無機質な色彩の壁、眩しいばかりの照明が目を射す。
あの出来事が夢物語の一頁のように思えるほど違う空間。
目が覚めた後の特有の気怠さに身を任せながら、司は唯々天井を見つめていた。


『─────っ!!』


遠くで音がした。多分人の声。
その後に続くドアの開閉音と慌ただしい靴音。
柔らかい床に吸い込まれる音を聞きながらぼんやりと思いを巡らす。

 何故ココニ?

父サンハ?戒人兄サンハ?
咲夜姉サンハ?玲児兄サンハ?
律姉サンハ?匠兄サンハ?

アノ赤イ目ハ?
白イ腕ハ?
銀細工ノ薔薇の鎖ハ?
黒イ影ハ?

 アレハ……夢?




思考を飛ばしかけていると、突然名前を呼ばれた。


  『司!!』


医師や看護士らしき人物を間を縫って真っすぐ駆け寄ってくる人。
それは紛れもなく三番目の兄・匠だった。



急に夢から現実に引き戻された。


夢じゃない。
ぼやけた頭にそれだけが響いた。



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