参、【現在進行形状況報告】 






四方を海に囲まれる島国・瑞穂。

外界との接点が少ないまま発展し、数少ない交流を交える周辺地域の文化を吸収しながら独自の文化を開花させたこの国は、天の国主の血に連なる帝を主とし三十二の州と呼ばれる小国を従え安寧を保っている。

今でこそ天下泰平を謳っているが、ほんの五十余年あまり前までは四十を越える国が血で血を洗う合戦を繰り広げた戦国乱世であり、その諸国が臣下に下り三十二の州として落ち着いたのもつい三十余年前。
今日の形に治まったのは二十年にもならない。

近年ではこの秩序を維持する為に帝を擁立し州を統制する封建制は保ったまま、渡来の近代的軍事制度を取り入れ帝の権力を強固しようという動きの中にある。
この軍事体制は各国に分散していた武力組織を統一し、今までの武家・公家などの身分制よりも学識や実践に重きを置きそれに応じた階級を与える制度を取った。

だが、その一方で三十二州に統合する際に起きた内乱や新たな軍事制度導入に対する抵抗勢力の台頭、諸外国からの外的圧力など国内外の政治的、経済的問題から現在の体制に反発する反政府組織が乱立しているのも事実である。




「今回の被害は『円鵠楼(えんこくろう)』の第一棟、第二棟倒壊、及び第三棟半焼。
第四棟、第五棟は倒壊は免れていますが、煙と熱の被害が内部まで及んでいる為今後建物の使用は難しいと思われます」


資料片手に辺りを見回しながら洛叉監史第三分隊隊長・木津宮燎介(キヅミヤ リョウスケ)中佐は被害状況の報告を端的に述べた。


ここは洛叉監史総本部『白鶯館(はくおうかん)』会議所。
そこに集まる面子は今朝方起こった爆発テロの報告と検討会議を行なっていた。


「……毎度毎度、面倒臭ぇことやってくれるぜ、凡暗共が」

「副長、あんまり恐い顔して文句言わないで下さい。恐いを通り越してウザったいですよ」


勿論副長の紅と隊長格の園衞も参加しているが、いつものように紅は機嫌が悪く園衞はやる気が感じられない。

今回テロの被害を受けたのは総合商館・円鵠楼。
国営の貿易公社で、聳え立つ石塔を思わせる五基の混凝土(コンクリート)の建造物はその規模と外見から「五重の灯籠」、「洛中の五本柱」などと呼ばれ西京の象徴的な建物の一つである。
この度の爆発と火災により五基のうち二基が全壊、一基が半壊、残りに至っては内部損傷が激しく使用不可となった。


「幸い発生時間が深夜、加えて改装・改築中で無人だったようで死傷者はいません」


こちらからは以上です、と言って木津宮は自分の席に腰を下ろす。


「首謀者の特定はできてるか、木津宮」

「特定はできていませんが、円鵠楼の五本柱を一気に二本も折る火薬を仕入れられるのはおそらく一条の一派かと」


木津宮の返答に質問をぶつけた紅はまた眉間に皺を寄せ不機嫌を顕にした。


新たな軍事体制を入れ国家が新体制となって十余年。
それに呼応するかのごとく反政府組織も台頭した。
公に言論で対抗する者、武力に訴える者、対抗手段は千差万別。
核となる人物は武家や公家、知識人、商人、農民など多種多様。
その背景も様々であるが国家に怨恨、遺恨があることは一様に共通している。

現在その中でも規模、計画の周到さ、過激さ、注目度、あらゆる面で群を抜いているのは一条暹太郎(イチジョウ センタロウ)率いる武装組織『夜郎衆(やろうしゅう)』である。
華洛(からく)の名門の武家・一条家に生を受けながら一条は七年ほど前から同志を集め破壊活動を繰り返している。


「……一条の野郎か。なら“奴”も絡んでるだろうな」


少しの沈黙の後、紅は小さく呟くと徐ろに立ち上がった。


「とりあえず関係筋全部当たってこい。爆薬の入手経路、商館関係、思い当たるところ全部だ。
怪しいと思ったら余罪でも何でも理由つけて殺さねぇ程度に引っ張ってこい。以上、解散」



紅の一声と共に隊史全員が一斉に各所へ散った。
残ったのは紅と隊長の園衞、木津宮二名のみ。


「己(おれ)は頼さんに報告してくるから。園衞、木津宮サボんなよ」

「副長、オレは真面目にやってますって。言うなら生田だけにして下さいよ」

「やだなぁ、燎介さん。おれだって真面目ですって。
じゃ、茶ぁしてきますね」

「園衞ぇ、よっぽど茶葉と一緒に煮込まれてぇみてぇだなぁ、えぇ?」

「そんなに皺寄せたらそのまま固まりますよ。なんなら一緒にお茶どうです?和むこと受け合いですよ」



園衞の不実極まりない発言に紅が激昂し抜刀、それを必死に止める木津宮の攻防はそれからかれこれ半刻は続いた。
勿論、仕事が遅れたのは言うまでもない。


【了】 


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