まるで初めて女を抱く少年のように。


「先生」
 そう呼ぶ顔は、少女のそれではなかった。あれから何年経っただろうか。
「もう、おまえの先生じゃないよ」
 燻らせていた煙草を消し、酒の入ったグラスを呷る。
「先生は、ずっと、私の先生よ」
 微笑む彼女を引き寄せて、唇を奪う。
「これでも」
 気を抜くと震えてしまいそうな指に、必然と力が入る。
「先生。後悔しない」
 彼女の瞳は真っ直ぐだ。あの頃から変わらない。
「おまえは」
「ふふ」
 艶やかな笑みを浮かべた彼女を抱き締める。まるで初めて女を抱く少年のように、ぎこちなく。
 想いを伝えることは、生涯ないと思っていた。でも、今なら。許される、だろうか。







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