一目惚れ


私はいつものように、髪結い所に出かけた。

行きつけの店である「髪結い所・斉藤」は大名様達にも人気があるにも関わらず、庶民的である。

店主の幸隆さんはいつも私の髪を綺麗に結い上げてくれる。

『こんにちは、幸隆さん。』

私は暖簾をくぐり、店内に顔を覗かせた。

幸隆さんはいつものように笑って迎え入れてくれた。

『今日もいつものようにお願いします。』

幸隆さんに案内され、店にあがる。

「今日は私じゃなくて、別の者が結うことになりますが、構いませんか?」

私の服に髪がつかないように布を被せながら呟く幸隆さん。

『ええ、もちろんです。』


私の言葉を聞いた幸隆さんはホッとして、店の奥に呼びかける。

「タカ丸、お得意様がいらしたぞ。」

奥から慌てて出てきたのは金髪に手拭いを巻いた若い少年。

「うわわ…い、いらっしゃいませ。」

あたふたと櫛と鋏を懐から取り出す。

「私の息子のタカ丸です。まだまだ若造ですが……。」

ごゆるりと…と言い残し幸隆さんは奥に消えた。

『今日はよろしくお願いしますね。』

「こ、こちらこそです…!!」

私は少年の顔を見た。
年は同じくらいだろうか。

タカ丸さんの指が髪を持ち上げる為にうなじにかかる。

『タカ丸さんはやはり幸隆さんを見て髪結いになろうと?』

「え、ええ。まだ父さんのようにはいきませんけど。」

へへ、と苦笑いをするタカ丸さん。

『応援します。これからタカ丸さんに専属で髪を結って貰おうかしら。』

「ほ、本当ですかっ!!」

つい笑みをもらしてしまう。
こんなに喜ぶなんて。

「実は……今日この仕事が髪結いとしての初仕事なんです。」

私は驚いた。

櫛で髪をとかす手捌きも鋏で整える腕も手慣れているように感じる。

「僕、ずっと前から父に髪を結って貰うあなたを見てきました。」

私は黙って聞いていた。

「なんていうか、その時思ったんです。髪結い師として一番最初の仕事はあなたの髪を結うことだ、って。」

『タカ丸さん……。』

タカ丸さんの顔が赤くなっているのが想像できた。

私も恥ずかしい。

「…ずっと、好きでした。」

タカ丸さんは続ける。

「だから、あなたにさっきの台詞を言われる前から言おうと思っていました。



あなたの髪を一生結わせて下さい。」



耳元で囁かれたその言葉に私は頷き返した。



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