近くでごそごそと音が聞こえたかと思えば音はいつの間にか無くなり、その代わり部屋のドアの開け閉めの音が小さくだが聞こえた所為で私は目を覚ました。
ああ、さっき見ていたのは全部夢だったのか。
一気に現実に引き戻された私は深く溜め息を吐いた。
ふと隣を見ると彼は居なかったが、まだ荷物が部屋にあるということは帰った訳ではなくて、きっとシャワー浴びに行ったのだろう。
私は再び溜め息を吐いてベッドから起き上がろうと身体に力を入れようとしたけれど全然ダメだ。
まだ力が入らない。一回寝たはずなのに、いくら久しぶりの行為だからってこんなに疲れたのは今まで無かった。
私は枕元に置いてあった携帯で時間を確認したら只今の時刻は23時47分。思ったよりも遅かった。
どうしよう、彼に迷惑をかけてしまった。私が何て彼に謝ろうか考えている瞬間部屋のドアがゆっくりと開いた。
「祐香ちゃん起きてたの?」
「…あ、及川さん」
「おはよ、タオル借りたよ」
彼は髪の毛を拭きながら私が寝ているところまで来ると私の頭を優しく撫でた。
「…ごめんなさい、時間」
「ああ、今日は家帰らなくても大丈夫だから気にしなくていいよ」
「そうですか…」
「祐香ちゃんさぁ…好きな人できた?」
ズキリと胸が痛んだ。
そんな質問されたから、と言うのもあるが彼がニコニコと微笑みながら首を傾げるもんだから私は余計辛かった。わざとなのかもしれない、私の頭の中にそんな考えが過る。だって普通そんなこと訊くだろうか、もしかして彼は気づいているのかもしれない。
「できてたらしませんよ、こんなこと」
「祐香ちゃんは本当に馬鹿だよね、嫌いじゃないよ…そういうところ」
彼は横になってる私に顔を近付けると軽く口付けた。もし彼がわかっててやっているのだとしたら私にとってそれはとっても酷だ。彼は私を離さない気でいるのだろうか、都合のいい玩具を側に置いておくつもりなのだろうか。そんなこと暗いことばっかり考えてしまう。
「及川さん」
「ん?」
「狡いです、いつもいつも…おやすみなさい」
私がそう呟くと彼は申し訳なさそうに微笑んだ。私にはその笑みが演技なのか本気なのか区別なんか出来なかったが演技じゃなければ良いのにって強く思いながら私は再び目を閉じた。
私が再び起きると、もう隣には彼は居なかった。当たり前か、彼は違って色々と忙しい人だもの。私は大きく欠伸をして、枕元に置いてあった携帯で時間を確認しようと携帯に手を伸ばした。
画面に表示されていた
“新着メール一件”
読まなくても私にはそれが誰から送られたメールなのかがわかった。
後で読もうと再び携帯を枕元に置いて、私はシャワーを浴びようと部屋から出て浴室へと向かった。脱衣所で服を一枚一枚丁寧に脱ぐと私は鏡に映った自分の姿をまるで他人のように見つめた。
身体にはあちこちに痕がつけられて自分の身体なのに何だがいやらしく感じた。でも痕を見ると何故だか凄く安心する、私は首筋につけられた痕をそっとなぞった。
首筋につけるのはわざとなのだろうか、それとも彼の所有物の玩具という印でしかないのだろうか。
今度彼から抱かれる頃には、もう痕が消えかかっているだろうか。それとも…
04 口痕
(お願い、消えないで)