消えない痕 | ナノ

 彼との約束は今夜八時になった。まあ彼が一方的に時間や場所を決めたのだけど。
こんな関係を誰にも知られたくないのでなるべく二人で出歩くのは危険だ、なのでいつも会うときはお互いの家や個室がある店などを利用している。今日はたまたま両親が旅行中の為、家には私以外いないという私の家で密会する予定である。

彼はああ見えても青葉城西高校のバレー部の主将だ。練習等でいつも帰りは遅い、付き合っている時も一緒に帰れた事はあまり無かった。一緒に居られる時間も少なかったのに私はいつも幸せだった。彼が隣に居てくれるだけで何があっても笑えていた。
彼と別れた時の私はまるで水を与えられていない植物のように徐々に元気が無くなってしまった。
毎日が毎日が嫌になって笑えなくなった。だから彼がこの関係を持ちかけてくれた時は胸が踊った、彼の側に居られるならどんな関係でも良かった。


 ピンポーン、機械音が部屋に響いた。ああ彼が来たようだ、でも約束の時間より少し早い。どうしたのだろうか、私は少し駆け足で玄関へ向かうとドアの鍵を開けた。すると彼はゆっくりとドアを開けた、いつものようにへらへらとした笑みを浮かべながら。

「祐香ちゃーん」

「早いですね、及川さん」

「祐香ちゃんに会いたくてさ」

「お世辞は結構ですよ」

「ねえ、祐香ちゃん」

「なんですか?」

「お腹空いちゃった」

私の服の裾を引っ張りながら彼は呟いた。私の名前を何度も呼んで手料理食べたいと言い続ける彼を見ていると年上のはずなのに何故だか愛らしいなんて思ってしまう。

「…もう作ってますよ」

「ん、本当?流石祐香ちゃんだね」

私の言葉に彼は嬉しそうに反応した。私は彼をダイニングに案内すると机の上に料理を並べ始めた。何故私がすでに準備をしていたかというと彼は私の家に来ると手料理をねだるのが定番だからだ。それは付き合っている頃から変わらない。

「相変わらず料理上手だよね」

「そんなことないです」

 彼の一言で私は簡単に喜ぶことが出来る。
単純って言われるかもしれないだけど恋する女の子は好きな人からそんなこと言われたら舞い上がっちゃうくらい嬉しいんだ。
こんな関係なのにね、本当私は馬鹿な女だと思う。もうとっくに心も身体も綺麗じゃなくなってしまってるというのに。


「美味しかった、また作ってくれると嬉しいな」

「機会があれば」

「あ、祐香ちゃん」

「はい?」

「そろそろ祐香ちゃんの部屋に行きたい、ダメ?」


彼は少し首を傾げると私を見つめた。きっと彼は私が何て言うかわかっている。
なのにそれをわざわざ訊くなんて私には理解できない。

「いいですよ」

私がそう呟くと彼は口許を緩めた。


 部屋に着くとすぐさまベッドへ直行だ。
付き合っていた頃はこんな風じゃなかったのに。彼から抱かれるようになったのはこんな関係になってからだ。初めてだった私を最初は優しく抱いてくれたが次第に荒々しくなっていった気がする。でも情事後は優しくしてくれるし、なにより彼と繋がっている時間は私にとって幸せな時間だ。

「祐香、」

「及川さ、ん…っ」

ベッドに押し倒されるとほぼ同時に口を塞がれた、勿論彼の唇でだ。学校では絶対に出来ない深い深い口付け、私の口内に彼の舌が入り込んできて私の舌に絡ませてくる。
頭が真っ白になるような長く深い口付けに私は未だに慣れていなくすぐ苦しいと彼の胸板を何度か叩く。すると彼はゆっくりと口離すと私の服に手をかける。

「ごめん、我慢出来ない」

「…及川さん?」

 私の問い掛けに彼は答えなかった。
ただ黙って私の服のボタンに手をかけると少し雑に私の服を脱がせていった。

02 離れている距離

(近いのに、どこか遠い)

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