世の中は理不尽だ。
私は高校生になってその事を再確認するような出来事をたくさん体験して身も心も全部ぼろぼろになった。
大切な人に頼ろうとした時に捨てられて、自暴自棄になりそうになったが頑張ってそうはならないようにした。もうすべて嫌な思い出は忘れてしまおう、そう思った時に限ってまるで忘れさせないために神様が仕向けたかのようなタイミングで元に戻りかけていた歯車はまた狂い始めた。
「祐香ちゃん」
静かなはずな休み時間、突然聞こえてきた上級生の声にびくりと肩が震える、彼から名前を呼ばれる時はいつもそうだ。別に恐怖とかそんなのじゃない。
嬉しくてだけど少し憎たらしくてなんていうか色々な感情が入り交じったような…凄く複雑すぎる。私が黙ってると彼は私の腕を引っ張って人がいない空き教室へと私を連れていく。
「…さてと、ここなら人来ないかな」
「何ですか、及川さん」
「冷たいなあ、ところで今夜暇?」
「…私にそれを聞きますか」
彼と私の関係は一体なんなのだろうか。
最初は先輩後輩でそれから恋人同士になった。
それから、別れたけどずるずると繋がっている。健全な高校生なら絶対こんな関係を望まないはずなのにね。
「それはOKってことでいいのかな?」
くすくすと彼は笑っていた。彼を純粋に愛していた頃はあんなに好きだった笑顔も今はどこか憎たらしい。
私を散々弄んだ癖にまだ足りないのか捨てないでキープして本当に狡い人。私が拒絶できないって知っててそこに付け込んでいる。
彼にとって私は都合の良い女だって理解してる。それなのに拒絶できないのは私がまだ彼を好きでいるから。
「…及川さん」
「んー?」
「離してください」
「嫌だって言ったら?」
私の腕を掴んでいる彼の手に力が入る。
驚いて彼の顔を見ると口調はとてもヘラヘラしているのに目が笑っていなかった。
「…っ」
「あはは、祐香ちゃんの苦しむ顔好きだよ俺」
「及川さんは、本当いい性格してますね」
「…祐香ちゃんもね」
どこか呆れたように微笑むと彼は私に優しく口付けをしてくる。いつもそうだ優しく口付けをしてその後には抱き締めてくれる。彼はただ歪んだ接し方しか知らないだけなんだ、私はそう思い込むと少し心が楽になるからいつもそう思い込むようにしている。
「授業始まっちゃいますよ」
「このままサボっちゃおうか」
「何言ってるんですか、ほら行きますよ」
「祐香ちゃん」
「はい?」
「大好きだよ」
「私も大好きです」
きっとまた彼は私をどん底に突き落とすような真似をするだろう。
それでも側に居たい。本当私って馬鹿だと思う。どんなことされとも例え裏切られても好きでいる自信があるの、何でだろうね。彼はお世辞にも性格が良いとは言えないような人なのに、きっと惚れた弱みってやつなのかしら。
付き合ってない不真面目な関係だと言うのに、日に日に思いは強くなる一方なんて彼は私のことこれっぽっちも愛してくれてないのに。彼にとって私はいつか要らなくなるような存在なのにね。
「じゃあね」
手をひらひらと振りながら彼は私に背を向けて廊下を歩いて進んでいくのを少し見つめてから彼と正反対の方向へと私は向かった。
01 私と彼の関係
(いつかまた彼の隣を歩きたい)