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 流石に制服のまま出掛けるのは色々と面倒なことになるので私はとりあえず私服へ着替えてから彼と家から出て駅に向かって歩きだした。

「何処まで行くんだ?」

「とりあえず電車に乗って…隣の市の大きなショッピングモールに」

私がそう言うと彼は幾度か頷いた。わざわざ隣の市まで行くのには理由があった。一つは近所に良い店が無いのと、もう一つは万が一知り合いと会ったら大変だからだ。
駅まで着くと私は一応周囲を警戒しながら二人分の切符を買った。こんな時間だからなのか周囲には人は親子連れと老夫婦しか居なかった。私は安心して胸を撫で下ろすと彼に切符を手渡した。

「悪ィな」

「気にしないでください」

 改札を通ってホームへ着いた時には丁度電車が到着する一分前だった。今日はもしかしてツイているのかも。
電車が停車してゆっくりと扉が開いても降りてくる人は誰も居なくて、いや寧ろこの車両には誰も居なかったので当たり前か。
勿論、乗り込んだのは私たちだけだった。

 貸し切り状態の電車内で質問でもしたり他愛もない話でもしよう。
なんて思っていたのに私は彼と言葉を交わせなかった。
あまりにも静かな空間の所為だろうか思ったことが口から吐き出せなかったのだ。私は自分自身に苛々しながら、彼から少し視線を外して窓の外を眺めた。窓からは通行人やら建物が見えた。
ふと、反対側の窓が気になり反対側の窓へと視線を向けた。すると、街路樹が見えた。街路樹は青々と茂っており季節が春から夏へと移り行くのを実感させられた。再び彼へと視線を戻してみると彼も窓から見える景色を眺めている様子だった。彼は、一体どんな思いでこの景色を見ているのだろうか。
いやそんなことを私が考えても無駄なことだろう。だってそれは彼にしかわからないことなのだから。
私が一人考え一人で納得している間に電車はあっという間に目的地へと着いてしまった。

「アーサーさん、此方です」

私はそう言いながら、彼の服の裾を軽く引っ張って案内をする。先程電車内では一言も会話しなかったため少し気まずいくて目を合わせられないでいたが彼はわざわざ私の視界に入ってきてくれた。

「此方だな?…あ、あれか?」

彼はこんな無愛想な態度をしてしまう私に優しく微笑んでくれる。
本当、申し訳ないと思っている。

「はい、あれです。結構な大きさですよね」

駅から数分しか掛からない場所にあるショッピングモールには平日だというのに多くの人が訪れる。だから私はこの場所を選んだ。此処なら誰にも知り合いに会わないと思ったからだ。
少し駆け足で、ショッピングモールへと続く階段を上って行く。誰かと買い物にくるなんて久しぶりだ。

「葉月」

「はい?なんですか」

「楽しそうだな」

彼からそう言われて私は今自分が楽しそうにしていると自覚した。そう言えば確かに私は駆け足で階段上ったりしてるし、もしかしたら自分が思っている以上に楽しんでいるのかもしれない。

「す、すみません…」

「あ、いや謝らなくていい…なんて言うかその、此方まで楽しくなるしな」

そう言うと彼は私と同じように、階段を駆け上ったので私は驚いてしまったのと同時に彼は優しい人だなと再度思った。

 ショッピングモールに入ると私たちはエスカレーターに乗り紳士服売り場に向かった。とりあえずは、衣類を買ってから生活雑貨を買おう、と言うのが私が建てた買い物計画である。

「あ、あの私は此処に待ってますから…」

彼も服くらいは自分一人でゆっくりと考えたりして選びたいだろうと思って私はそう言った。
すると彼は少し申し訳なさそうに眉を下げたが小さく礼を言って服選びをし始めた。私は彼を見失わない為にも彼のことが確認できる位置に居るようにしないとならないので、実は迷惑ではないけれど変位置に居るのだったりする。

暫く待っていると彼が両手に洋服を持ちながら私のことを呼んだので私は少し慌てながらもお財布を持っていった。
レジへ持って行くとレジのお姉さんから変な目で見られたが気にしないように私はレジを見つめた。“合計でーー”レジのお姉さんが金額を読み上げるのと同じくらいに私はお財布からお金を取り出して支払った。

紙袋に詰められた品物を受けとると私は時間を確認しようと立ち止まって携帯を鞄から取り出した時に彼が声をかけてきた。

「葉月」

「はい」

「荷物重いだろ?
俺が持ってやらなくもない」

恥ずかしそうに彼はそう呟いた。普通に言えばいいのに、わざわざそう言うところが面白くて私はつい口許を緩めてしまった。

「じゃあ、よろしくお願いします」
私がそう言うと彼は何処か嬉しそうに私から紙袋を受け取った。

「次は…どうするんだ?」

「もう昼近いし、レストランフロアで昼食…なんてどうですかね、アーサーさん何か食べたい物はありますか?」

「うーん…
俺はこれと言って特に無いな葉月任せる」

「じゃあ空いてるお店に入りましょうか」

 そんな会話をしながら、私たちはエスカレーターへと向かい、レストランフロアへと行くことにした。昼時はものすごい混むから少し心配だがまあ大丈夫だろう。
ああ、それにしても買い物ってこんなにも楽しいものだったっけ?久しぶりだからそう感じるだけだろうか、今の私には判断できない。
ただ隣に誰かが居るのは何故か安心した。

でも、彼は私と居る時どんな風に思っているのだろう。


レストランフロアには近くに会社があるためかOLとかママ友と遊びに来たであろう主婦の集団ばっかりで高校生にしか見えない私と外見がかなり目立つ彼がセットでいるのはどうしても視線を集めてしまう。

「葉月」

「ア、アーサーさんあの店空いてますよ」

そう言って私は彼の腕を引っ張り、目の前にあった洋食店へと逃げるように入って行った。

 店内はシンプルな内装でBGMには洋楽が掛かっておりどちらかと言うと普段なら私が絶対に一人では行けないような雰囲気の大人っぽい店だ。店内にはサラリーマンが数人とまあ他の店に比べて比較的空いているので逃げるように店内に入ったがかなり当たりの店のだと私は思った。

席に案内されメニュー表を渡されると私は彼に何を食べたいか尋ねた。
すると彼は少し悩んだ素振りを見せつつも私と目が合うと
「葉月と同じでいい」と小さな声で呟いてきたので私はウェイターさんに当たり外れがなさそうな日替わりランチを頼んだ。

「アーサーさん」

「ん?」

「午後も買い物頑張りましょうね」

「あぁ、そうだな…頑張ろうな」

そんな他愛もない話をしていると料理が運ばれてきた、とりあえず昼食をゆっくりしっかりと摂って午後に備えなきゃ。

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