50000hit | ナノ
窓際の前から四番目。私はこの席が一番、一番気に入っている。
だって、前の席が大好きな人だから。

前の席の君

「おっはよー、みょうじちゃん」

「お…おはよ」

私の前の席の及川は女子に対して優しすぎる男だと思う。ただのクラスメイトの、滅多に話したこともない私にも優しく挨拶をしてくれるし、廊下などで顔見知りの女子に会う度に必ず手を振る、女子が重たい荷物を持っているのを見かけたら持ってあげる、等の事を当たり前かのように笑顔で行ってしまうのだから恐ろしい。
そんなことをされて喜ばない女子はいないと分かっててやっているのだろうか。
狙ってやっていても彼なら許せてしまう気がするから不思議である。
最近、青葉城西に通う女子生徒は全員一度くらい彼に恋心を抱いたことがあるのではないかと真面目に思うのだがどうだろうか。
私も彼に淡い気持ちを抱いている事に間違いはないのだが、私はいつも彼の後ろ姿をこの席から眺めていた。

そんなある日転機が訪れた。数学の時間、彼は寝ていた。午後最初の授業なので寝てしまうのも別に珍しくもない。
私は彼が壁に寄りかかりながら寝ている後ろ姿をちらちらと見つめながら黒板の文字を必死にノートに書き写していた。
その時、先生が例題を誰かに解いてもらおうと言い出して、当てられたのが彼だった。
まだ少し眠たそうに返事をして、しばらく黙り込んでから、先生にヒントちょうだい!とお願いするので先生も苦笑いだ。
だが先生は苦笑いしながらも彼に答えを聞き続けるので彼も笑って誤魔化そうとするのだが先生は、さあ及川答えはと彼から答えを聞くのを諦めない。
二人のやり取りを見ていて流石に彼が少し可哀想に思った私は彼の背中を少し叩いて小さい声で彼に答えを教えた。
彼が私が教えた答えを言うと先生は最初から真面目に答えろよ及川と言いながら視線を黒板に戻した。

「みょうじちゃんありがと」

先生が黒板に文字を書き始めると彼は顔だけ少し振り向いて私にお礼を言ってきたので私は、別に…と呟いた。

「さっきは本当にありがとう!」

数学の授業が終わってからもお礼を言い続けてくるので私は困ってきた。しかもわざわざ席から立ってわざわざ私の横にまで来てお礼を述べるのだ。
「別に、お礼言われることじゃないよ」

「でも」

彼が何かを言いかけたその時、彼の言葉を遮るかのようにクラスの女子が彼に声をかけてきた。
私はなるべく関わりたくなくて彼らから視線を逸らして窓の外を眺めた。

「ねえ、及川はみょうじさんと何話してたの?」

「えっとね、さっきの数学の時間に助けられたから」

「えー!そうなんだ?」

「ね、みょうじちゃん」

二人の会話を聞かないように、関わらないようにしていたのに彼はわざわざ私の肩を軽く叩いてきた。
仕方がないので彼ら方を一旦向いて頷き、そしてまた窓の外へと視線を戻した。

「みょうじさんって何考えてるか分からないよね、よく話せるよね及川」

女子が機嫌悪そうに小声だが私にも聞こえる大きさで彼に言ったので私は思わず視線を彼らに向けた。彼は私みたいな奴にも優しく声をかけてくれる、それが気に食わない女子も少なくない。
この女子もそういう風に思っている人だから私は苦手なのだ。
彼はどの女子にも平等だから、女子の発言に何て返事をするのか気になるが視線を床へと移した。

「…俺はさ、みょうじちゃんと話したいから話してるの
それに君にみょうじちゃんの何が分かるの?
あ、もうすぐ授業始まるから席に戻ったらどう」

彼の雰囲気がいつもと違うことくらい私にもわかった。女子は一瞬驚いた顔をしてから私のことを睨み付けると自分の席へと戻って行く。

「…あの、及川」

「嫌な思いさせちゃったよね、ごめん」

申し訳なさそうに眉を下げる彼に何だか此方まで申し訳なくなってくる。

「いや、そんな謝らないで…それに私こそ」

「あー、気にしなくていいから!
俺、みょうじちゃんと話すの好きだからあんなこと気にしちゃダメだよ」

彼はそう言うといつものような笑みを浮かべると顔の横でピースサインをした。
至近距離で彼の笑顔を見るといつにも増して心臓の鼓動がドキドキとうるさくなるので彼に聞こえないようにと願いながら私は彼の言葉に頷いた。

次の瞬間、彼が私の耳元で「あとで数学のノート貸してね」と言い出すので私の顔はあっという間に赤くなる。
すると彼はクスリと笑みを浮かべながら私の前の席へと戻っていった。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -