生まれたときから、ずっとずっと一緒だった。
「蛍、おはよ」
「おはよ、なまえ」
隣で寝ていた蛍を起こして、いつもの様に頬に口付けると私はベッドから起き上がった。
高校生になっても男女が同じベッドで寝るのはおかしいと互いに分かっている。
だけど私達は互いが側にいないと寝付けないのだ。
着替えだって互いの前で普通に出来るし、
一緒にお風呂に入れと言われたら入ることだって簡単に出来る。
普通の姉弟が滅多にしないことだって私達は出来てしまう。だってお互いのことが大好きなんだもの。仕方がないでしょう。
私は眠い目を擦りながら、パジャマのボタンを外していく。今日は生憎の雨で少し肌寒くて私は小さく肩を震わせた。
「蛍のクラスは一限なに?」
「世界史」
「…ふうん」
着替えながら私は蛍に対して何気無い質問をしていく、これもいつものこと。
家では会話とかスキンシップは多いけれど、
一歩家の外に出ると私達は会話もスキンシップもなくなる。
中学校の時に当時のクラスメイト仲良すぎて気持ち悪いと言われてから、ずっとそうやって過ごしている。
私達としてはこれが普通なのに、他の人から見たら異常な仲の良さらしい。
「蛍は学校では山口といつもいるでしょ」
「なまえも女子といるでしょ」
「…そんなこと言わないでよ、続き言えなくなるじゃん」
「どうせ、寂しいとか言うんでしょ?知ってる」
そう言って蛍は私の頭を撫でると部屋から出てダイニングへと行ってしまったので私も蛍のあとを追いかけるようにダイニングへと向かった。
ダイニングに置いてあるテーブルには母が作った朝食がもう既に置いてあり、そう言えば母が明日いつもより家を出るのが早いと昨晩愚痴を溢していたのを思い出した。
少し冷めている朝食のおかずの焼き魚を食べてから、牛乳をコップ一杯飲んだ。
牛乳を飲むのは私の日課である。
双子なのに、私は姉なのに、弟の蛍より身長が三十センチ以上低い。女子なのだから仕方がないと思えばそうなのだけど私はそれを気にしている。
だから毎日コツコツと牛乳を飲み続けている。
「なまえ、僕部活あるから先に行くよ」
「うん、行ってらっしゃい」
蛍はバレーボール部、私は帰宅部。家を出る時間も家に帰る時間も全然違う。
先に家を出た蛍に玄関から行ってらっしゃいと手を振り終えると私は再びダイニングに戻って食器を片付けた。
そして蛍が家を出てから、数十分後に私も家から出た。
学校が近付くにつれてクラスメイトとすれ違う率も高くなる。私は目の前に友達を見付けると挨拶をしながら駆け寄った。
「おはよ」
「おはよ、なまえ!課題のプリントやった?」
「数学のでしょ?やったよ」
「教室着いたら写させてください」
「仕方ないなあ」
他愛もない話をしながら校門を通りすぎると教室へと向かった。
まだ教室にはそんなに来ていなくて、私の隣の席の子も部活で来てないため友達は彼の椅子に勝手に座ると私の答えを自分のプリントへと書き写す作業に入った。
その間、私はかなり暇なため窓の外をぼんやりと見つめた。
今ごろ、蛍は朝練だ。
出来ることならば、側でずっと見ていたいのに。
学校では私達が双子だと知っている人はそんなにいない。自分達からべらべら話すのは面倒臭いので訊かれたら答えると言ったことを繰り返している。
多分、多くの人は私と蛍のことを苗字が同じだけの人と認識しているだろう。
「終わったー!なまえありがとう」
「どういたしまして」
友達は、私にお礼を言うと自分の席に移動していった。
一人になって退屈になった私は再び窓の外を眺めた。すると体育館から校舎へと向かう道に見慣れた姿を見付けた。
蛍だ。ここからじゃはっきりとは見えないけれど私には分かる。
私は蛍の姿を見付けると、つい口許が緩んでしまった。
学校が終わって別々に家に帰って一緒に夕飯を食べ終え、部屋へ向かうと学校で我慢してた分、蛍にべたべたと甘える。
「なまえ重い」
「けーい」
「何」
「だいすき」
「はいはい、僕も好き」
そう言って蛍は私の額に口付けを落とすから私はお返しに頬に口付けた。
一心同体
いつか離れるときが来るまでずっと一緒だよ。