護りたいもの | ナノ

 私がこの世界に来て一週間が経とうとしていた。
彼とは部屋が隣同士な為かあれから色々と構ってくるようになった。
あのカチンとくるような言い方も少しは慣れてきた。

 そんなある日私はとある任務任された。
今回一緒に行動を共にするのは彼ではなくマーモンさんと言う方らしいのだがなかなか姿を現さない。今回の任務は現地の空港でマーモンさんと会ってから行うのだが私の横に居るのは小さな子どもだけだ。
全くこんな小さな子が一人で居るなんて親は何を考えているのか。
私は私の横に居る子どもに視線をやった。

「ねえ君」

「…え?」

すると私の視線に気が付いたのか子どもが話し掛けてきた。
でもこの子何だか落ち着いている雰囲気でまるで大人みたい。

「深緒だね、話は聞いているよ
僕の足を引っ張らないよう頑張ってくれると嬉しいよ」

上から目線な物言いにカチンときながらも私はマーモンさんによろしくお願いいたしますと呟いた。

 今日の任務はボンゴレの元同盟ファミリーを潰すことらしい。ヴァリアーはボンゴレの独立暗殺部隊でボンゴレにとって迷惑なのを排除していくのが仕事のようだ。
今回はわざわざイタリアからロシアまで移動しての任務だ。
聞き慣れないロシア語があちらこちらから聞こえてくる。
イタリア語ですら完璧に覚えていない私にとってはイタリア語もロシア語も変わらないけれど。

「何ぼさっとしてるの」

いつの間にか移動していたマーモンさんから声を掛けられて私は慌ててマーモンさんのあとを追い掛けた。

 数年前まではかなり大きな権力を持っていたと言うファミリーのアジトは何処か寂しげで不気味な雰囲気が漂う。
何でも危険な実験を繰り返してまわりの同盟ファミリーたちにも迷惑をかけ始めたからボンゴレは同盟を解消した。
それからますますこのファミリーはおかしくなっていったと言う。
ファミリーと言っても人数はもうごく僅かである。
だけど今日の任務は念には念を入れて私とマーモンさんとそして数人の隊員で任務を行う。
マーモンさんが、このファミリーのボスであるブルスニツィン氏の暗殺を担当し、私と他の隊員は残りを殺るのが今日の任務内容だ。

マーモンさんからの合図で私は突入し次々と現れる標的に銃口を向け発砲をする。その間にマーモンさんはブルスニツィン氏が居るであろう部屋へと消えていった。

「…ぐっ、ヴァリアーめ」

「ごめんなさいね」

私は苦しそうな声をあげる標的の頭を撃ち抜いた。
どうやらこのフロアに居るのは私が撃った男が最後のようだ。
今頃マーモンさんがブルスニツィン氏を暗殺し終えている頃だろう。

「終わったよ」

ほら、マーモンさんが殺り終えて私の前に現れた。真っ白なワンピースを来た女の子を連れて。
あれ、何で女の子を連れているのだろう。

「マーモンさん誰ですかその子」

「あぁ、この子はブルスニツィンの一人娘だよ」

マーモンさんは私にそう言ってすたすたと歩いていく。
ちょっと待って標的の一人娘を何で連れて歩くのだろう。

 私は再びマーモンさんに尋ねることにした何故その子を連れているかを。
するとマーモンさんは小さく溜め息を吐いてこう言った
「この子が殺していたんだよ、ブルスニツィンをね」と。

 マーモンさんは何を思ったか知らないが標的の一人娘をヴァリアーのアジトへと連れて帰ると言い出した。
許可は取ってあると言ったので私は止めたりはしなかった。
標的の一人娘には暗殺者としての素質があるらしくマーモンさんは嬉しそうに私に語り始めた。

「この子は有望だよ」

「分かるもんなんですか」

「ム、まあね」

そう言ってマーモンさんと女の子と隊員とそして私は飛行機に乗ってイタリアへと帰っていった。
だけど女の子は飛行機の中でもアジトへ向かう車の中でも一言も言葉を発したりはしなかった。

 アジトへ着くとすぐ女の子は暗殺者を養成する場所へと送られて行った。不安そうな目をした女の子のことが少々気がかりなのだが私からは何も出来なかった。
自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いているとルッスーリアさんと出会したので足を止めた。

「あらっ久しぶりね元気にしてた?」

「はい、おかげさまで」

「ふふっ今度ゆっくりお話しましょうね」

そう言うとルッスーリアさんは任務に出掛けていった。
私は再び歩き始めようとすると今度は彼にベルフェゴールに出会った。

「任務お疲れ、どうだった?」

「それなりに頑張ったけど」

「ふーん」

初めて人を殺めた時や死体を見た時は気持ち悪くなって数度吐いたりしたが数回任務をしてきたおかげで慣れたのかもう大丈夫になってしまった。

「ベルは任務行かないの?」

「ん、オレは明日から任務」

「そう」

「そうってお前さぁ…
明日の任務お前となんだけど」

そう言って彼は私のことを指差した。
そう言えば私明日も任務が入っていたんだった。
私は忘れてたと呟くと彼から笑われた。

「笑うことないじゃない」

「ししっ怒んなって」

「もうっ」

 何でだろう第一印象は最悪だったけど今では話していると楽しくてこの時だけは暗い嫌な現実を忘れられる。
返り血で汚れてしまったことも全て忘れてしまえるくらい楽しい。
病まないでいられるのはきっとここにいる皆が明るくて不器用で優しいからだ。

「あ、私寝てないから寝てくる」

「ん、おやすみ」

彼と部屋の前で別れを告げて私は自分の部屋へと入ると一目散に重いコートを脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。
別に返り血たくさん浴びたわけではないけれど念入りに私は体を洗い流した。すると何故だが涙が止めどなく溢れだした。

わたしはなにをしているのだろう。

 シャワーを浴び終えると私は倒れ込むかのようにベッドに寝転がった。
疲れた疲れた疲れた疲れたと
私しかいない部屋で愚痴を言ったって返事は返ってこない。
私は大丈夫と自分に暗示を掛けると瞼を閉じた。
せめて夢の中だけは幸せでいさせてくれと願いながら私は眠りについた。


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