護りたいもの | ナノ

 任務の場所へと移動する時間になりそうなので私は車が停めてある場所へと走った。
もしかしたら早く着くかもと思ったのだが私の相方の彼はすでに来ていた。

「おっせーな、もっと早くこいよ」

「すみません」

 彼は相変わらず一々ムカつく言い方をする。
遅刻をしたわけではないのにこんな言い方されるのは嫌だ。
私は口では謝ったけれど心の底から謝るつもりはこれっぽっちもなかった。
私は無言で車に乗り込むと窓の外を眺めた。
隣には彼が座っていて車内の空気はかなり悪いと言えるだろう。運転手の人も気まずそうだ。
そうそう暗殺部隊はヴァリアーと呼ばれているらしく選ばれた者たちが任務をこなしていく。
任務の成功率は高く各方面から高く評価されているらしい。
ああ、なんで私はこんな所に居るんだろう。

 車から飛行機に乗り換え目的地へと移動し終えた頃には辺りは真っ暗。
無駄に綺麗な夜空を見て私は溜め息吐いた。
これから私がしようとしているのは殺しだ。
バーチャルゲームならどんなに良かったことか。自分の手が汚れてしまう事に対して嫌悪感、私は怖くて足が竦みそうだった。

「五分後突入開始だからな」

「…はい」

「ミスんなよ?」

 今回の任務内容は小規模ファミリーの殲滅。
故にこの任務に携わる人数も少ない。
私は拳銃を握り締めて深呼吸をした。
もうすぐ私は人としてやってはならないことを犯す。
私自身の為にも頑張らなければならない。元の世界に戻らなくちゃならないのだからこんな所で躓いてなんかいられない。

彼の合図で突入し、私は銃口を標的に向け拳銃の引き金を引いた。
勢いよく飛んだ銃弾は標的の胸を貫いた。
飛び散った血液に私は思わず吐きそうになるが何とか堪えて先を急いだ。

「やるじゃん、お前」

「どうも」

無愛想に返事をすると次々と現れる標的に私は銃口を向け引き金を引く。それの繰り返しだ。どれだけの人数を殺したかなんて分からない。数えることを諦めたくなるほど私はこの手で人を殺めた。
頬を伝う涙さえ拭う余裕も暇もなかった。

 任務完了の言葉を聞いて周囲を見渡すと人間だった何かがあちこちに転がっており、血の臭いがする。
私はこの異様な空間に堪えきれず嘔吐してしまった。

「…っもうやだよぉ、やだこんなのやだ」

私の叫び声が死体だらけの部屋に響く。彼は私に対して関心がないのかただ黙ってこの部屋から立ち去ったかと思ったら何処からか水が入ったペットボトルを持ってきた。

「ほら、飲めよ」

彼はそう言って私にペットボトルを押し付けた。私は小さく頷いてペットボトルを受け取ると蓋を開けてごくりと一気に飲み干そうとしたが思うようにはいかず噎せてしまった。

「…ゆっくり飲めよな、大丈夫かよ」

そう言って彼は私の背中を撫でた。
今まで一番優しい声の彼に私は戸惑いを隠せなかった。
彼が今どんな顔しているか分からないけれど私は彼の優しさに甘えてしまった。
きっとこれは夢だ。悪い夢を見ているのだ。
私はそう思わないと心を保っていられなかった。

 任務前に見つけたあのメモによると私はこの世界では死なないらしい。
ただしそれは事故、自殺以外でのことであり事故及び自殺の場合では死ねるということだ。
例えば私が今この場で拳銃を自分に向ければ私は死ねるということなのだ。

 私は拳銃で自らの命を絶とうか悩んだ。
人を殺めた罪悪感から?それとも人を殺めて汚れた自分に対する嫌悪感から?
答えは両方とも、だ。
そんな悩んでいる私に気が付いているか分からないが彼は私のそばにずっといた。
死体だらけの部屋から出ようと彼は私の腕を引っ張ってくれた。
私は足元がふらふらしながらも頑張って歩いてこの部屋からそして建物から出て外で待たせている車に向かった。

「ありがとう」

車に乗り込む時に彼にお礼を述べた。今日の任務に関してと私に掛けてくれたコートのことについてだ。

「別に礼言われるようなことしてねーし」

彼は笑ってそう言ってくれたので私は彼に対して抱いていた印象を改めさせられた。
口調とかはアレだけれどもしかしたら多分イイ人なのかも。

 車が空港に着き空港から飛行機に乗って目的地へと着くと再び車でヴァリアーのアジトへと移動した。
アジトに着いた頃には日付は変わっており私は眠たい目を擦りながら車から降りた。
彼はボスに報告書を届けに行くと言って私を置いて走り去って行った。
私は何もすることがなくただ呆然と廊下に立っていた。すると見覚えがある銀髪を見付け私は大きく名前を呼んだ。

「スクアーロさん」

「あ゛ぁ?深緒か…任務はどうだったか?」

「成功しましたよ」

「そうかぁ」

私の言葉に安心したのかスクアーロさんは笑っていた。

「スクアーロさんは何してたんですか?」

私がそう質問するとスクアーロさんは「自室で調べものをしていた」と即答した。

「部屋ですか…」

私がそう呟くとスクアーロさんは驚いた顔して私を見つめたので私は逆にスクアーロさんの顔に驚きながらも目線を合わせた。

「なっ、お前まさか部屋教えてもらってねぇのかぁ? 」

「はい」

私が頷くとスクアーロさんはあのクソボスがと溜め息を吐いた。
スクアーロさんに案内されて私は自分の部屋になる部屋へと行った。
無駄に広い部屋。家具類は設置されており直ぐにでも生活できるようになっている。

「隣にも部屋ありましたよね?あれは誰の」

「ベルのだ」

「へぇー…えっ?」

私は驚いて何とも間抜けな声を出しながらもスクアーロさんに聞き返した。

「まあ、そのなんだぁ…色々と頑張れ」

 視線を少し私から逸らしながらスクアーロさんはそう言って私の部屋から出て行った。
いくら彼に対して抱いていた嫌悪感が消えたと言っても隣の部屋だなんてそんなの困る。
先程あんな姿を見せてしまったからどんな顔して会えばいいかなんて分からない。
私は一人には大きすぎるベッドに腰を掛けると大きな溜め息を吐いた。
するとその時ドアをノックする音が聞こえたので私は誰だろうと疑問になりながらも部屋のドアを開けた。
そしたら彼が居るではないか。
私は驚いてドアを閉めようとするが彼はそれを許さないかのように足でドアを閉めるのを邪魔をした。

「オレさ、お前のこと気に入ってんだよね」

「そうですか」

「だからそろそろタメで話してくれね?堅っ苦しい言葉嫌いなんだよねオレ」

 そう言うと彼はしししと何とも独特な笑い方で笑った。
私には彼がどうしてそんなことを言い出したか全然分からなかったが、ここはとりあえず頷いておこうと思い「わかった」とだけ返事をした。


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