暗殺部隊という言葉を聞いて先程金髪のムカつく彼が言っていた言葉を理解できた。
確かに私は見るからに弱そうなのに暗殺なんて出来るわけない。
どうやら私はとても厄介なことに巻き込まれたようだ。
そしてボスと少しだが会話をして分かった事が三つほどある。
一つはあの気味が悪い二人組に推薦された所為で暗殺部隊入隊となった。
二つ目はボスと一部の幹部は私に期待していないと言うこと。
三つ目は先程の金髪の彼の名前がベルフェゴールと言うことだ。
まあ正直最後の情報は別に要らなかった。
でもせっかくの事だから覚えておこう。
私がのんきにそんな事を考えているとボスから会話の最後の最後で重要なことを私は言われた。
“明日から任務に行け”としかもペアを組むのはあの彼だと。
私は乱暴に机に置かれた任務資料を取るとお辞儀をして部屋から出た。
部屋から出ると緊張の糸がぷつりと切れ床に座り込んだ。
事故に遭って死んだかと思ったら変な世界にいて、この世界の運命を変えたら元の世界に戻れると言われて、半ば強引に此処に連れてこられて私に告げられたのは人殺しをしろ。
何でこんな風になっちゃったのだろう。私は普通の女子中学生だったのに。
私は止めどなく溢れ出す涙を服の袖で拭うとやりきれない思いを任務資料にぶつけるかの様に握り締めた。
数十分そうやって泣いていると足音が聞こえてきたので私は反射的に肩をびくりと震わせた。
顔をあげると綺麗な銀髪の人が私を不思議そうに見ているので私は勇気を振り絞って声をかけてみる事にした。
「あのっ」
「う゛お゛ぉい!!そこのガキィ
お前が水森 深緒かぁ?」
「え、はいっ」
ああ、私のことを知っていると言うことはこの人も幹部なのだろうか。私は相手の声の大きさに戸惑いながらも返事をして相手の顔を見つめた。
それにしても長い髪だなあ、暗殺者だと言うのに邪魔になったりしないのか気になるところだ。
「…明日の任務については聞いてるなぁ?」
「え、ええまあ…はい」
「あのクソボスが何言ったか分からねえが気にするなぁ」
私が気まずそうに目を逸らしつつ言ったからだろうか何故か慰められてしまった。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「それとなぁ、この廊下を左に曲がった先にトレーニングルームがあるから好きに使っていいぞ」
「ありがとうございます、えっと」
「オレの名前はスペルビ・スクアーロだ」
「スクアーロ、さん」
「ん、じゃあオレはボスさんに報告することがあるからこの辺で失礼するぜぇ」
そう言ってスクアーロさんは私に手を小さく振るとボスの部屋へと入って行ったので私は大きく深呼吸をしてから廊下をゆっくりと歩き始めた。目指すはトレーニングルームだ。
あの長い長い廊下を歩き進めるとそれっぽい部屋があったので私は恐る恐る部屋に入ってみた。
部屋には誰もいなかった。部屋の広さは何と言えばいいだろうか体育館…ううん、もしかしたらそれ以上だろう。
私は広い広い部屋の真ん中にしゃがみこむと怪しい女たちから渡されたスーツケースを再び開けてみることにした。
何故か私に気持ち悪いくらい丁度ぴったりの衣類と拳銃と弾と…また手紙のような物。
だけど今度の手紙は真っ白だ。
一体どういう意味が込められているのかなんて皆目検討つかない。
いや、こういうときは一旦考えるのを止めるべきだ。
私は溜め息を吐いて寝転がり少しだけ仮眠をするつもりで目を静かに閉じた。
ふと、目を覚ますと私の体にはコートが掛けられてあったが辺りを見渡しても誰一人居ない。
「今何時…?」
私は慌てて飛び起きると時計を探すが、生憎この部屋には時計が設置されていないようだ。
私は部屋から出て時計を探そうとドアの前に立ったその時ゆっくりと部屋のドアが開いた。
「あら」
部屋に入ってきた人物はとてもカラフルな髪色でサングラスを掛けた筋肉質の男性で食べ物が入ってある食器が置かれたトレーを持っていた。
「あ、あの」
「もしかして貴女この部屋で寝てたの?」
男性の口調は見た目とは裏腹で優しいお姉さんみたいな感じだ。男性はとても驚いた様子で言ってくれれば空き部屋があったのに風邪は引いていない?と私に尋ねてきた。
「でも少しだけでしたし」
本当は寝た時間なんて分からなかったけれどこれ以上心配されるのは御免だったので私はそう言った。
すると安心したのかこれ以上心配するような言葉を投げ掛けなくなった。
「あ、そうそうこれ良かったら食べて!」
「ありがとうございます」
男性は先程から持っていたトレーを私に渡すと口許を嬉しそうに緩めた。
「私はルッスーリア、これから女同士よろしくね深緒ちゃん」
女同士と言う言葉が少々引っ掛かるがルッスーリアさんはそういう人なのだろう。私はトレーを一旦床に置いて握手すると先程から不思議に思っていることを訊いてみることにした。
「あの」
「なにかしら?」
「このコートは誰のか」
「あら!
そのコートはベルちゃんのじゃない」
そう言って私の見せたコートに手を伸ばすと珍しいわねと小さく呟いた。
ベルちゃんと言うのはあの金髪のムカつく彼のことだろうか。
それにしてもあの彼が私にわざわざコートを掛けるなんてことするとは思えない。
私は納得がいかずルッスーリアさんに再度訊ねた。
「彼がそんなことするとは思えません」
「ふふっ、でもねぇそのコートは紛れもなくベルちゃんの物よ」
ルッスーリアさんは笑いながら私はそろそろ行くわねと言ったので私は慌てて引き留めて今何時か訊ねた。
「そう言えば、この部屋時計がなかったわね」
「任務の時間まであと何時間か知りたくて」
「えっと今は朝の六時、貴女の任務は今日の十五時から移動開始ね」
「そうですか…」
「この部屋を出て真っ直ぐ行くと階段があるから上って行くと談話室があるの
そこなら時計があるわ」
「ありがとうございます」
「初任務頑張ってね、応援してるわぁ〜」
体をくねくねさせながらそう言うとルッスーリアさんはこの部屋から出ていった。
また私はこの広い部屋に一人になってしまったのだが寂しいとかそんなこと考えてはいけない。
今は任務のことにだけ集中しなければならない。
だけどその前に私は先程ルッスーリアが持ってきてくれた食事に手をつけることにした。
そう言えば私この世界では普通に生きてるようでお腹も空いていた。
元の世界で死んだというのになんだが変な気分だ。それに何だか体が軽くなったような気もする。
後であのスーツケースをもう一回調べてみよう。もしかしたら何か手がかりが発見できるかもしれない。
私は最後の一口を口にするとスーツケースを開いて中を探した。
すると興味深いメモが入ってあった。