「それはきっと恋なよぉ〜!!!」
「し、静かにしてください!」
談話室にルッスーリアさんの声が響き渡る。私は慌てて辺りを見渡して、周りに誰もいないことを確認した。
「あらぁ、ごめんなさいね…つい」
「それと、恋じゃないですからね」
「ウフフ、何で深緒ちゃんはそう思うのかしら?」
「そ、それは……」
確かにそう聞かれてしまうと何も言えなくなってしまう。彼を知りたい、彼に近づきたいという私の欲は客観的に判断して恋だと思われるモノだと思う。しかし、私は自分の気持ちがわからない。恋と言い切ってしまっていいのか私には判断ができなかった。
「悩むことは良いことよ、だからたくさん悩みなさい
それに困った時には私がいるわよ?」
「ルッスーリアさん…ありがとうございます」
「お礼なんて要らないわ!…あ、それとね深緒ちゃん
さん付けなんてのは無しでいいわよ!もっと気軽に呼んでね」
「わかりました、改めてよろしくお願いします、ルッスーリア」
「ウフフ、ルッス姉でもいいわよ?」
ルッスーリアがそう言った瞬間、談話室のドアが乱暴に開けられ私とルッスーリアの間を一本のナイフが通り過ぎた。
「何気色悪いコト言ってんだよ、オカマ」
「んまあっ、ベルちゃん!?何するのよ、危ないでしょ」
「ししし、うるせーよ
てめぇが深緒に変な呼び方強要してんからだろ」
彼はそう言って私の隣に腰をかけた。突然に現れた彼に戸惑いつつも私は平常心で接さなければと心の中で呟いた。しかし、彼の声を聞くと胸が踊るのは恋というやつの所為なのだろうか。
「んもぅ!失礼しちゃうわね!深緒ちゃんもそう思わない?」
「え、あはは…でもベルっていつもこんな感じじゃないですかね」
「どーゆー意味だよ」
「誰に対しても言葉遣いが悪いし、ちょっと素っ気ないというか」
「そうよね、そうよね!」
「オカマに冷たくしてる自覚はあるけどさ
オレ、深緒にそこまで言われるほど深緒には冷たくしたことねーんだけど」
ふいっと顔を横に逸らす彼の姿はまるで子供のようで思わず笑みが溢れてしまう。
「私、別に悪く思ってるわけじゃないんだよ?ベルの口が悪いところも、子供っぽく拗ねるところも、優しいところも私は知ってるよ」
第一印象は最悪だった。でも知れば知るほど憎めなくなった。私のピンチに駆けつけて来てくれた時は嬉しかった。私の作り話のような話を信じてくれた。彼の存在は私の中で日に日に大きくなっていく。私は、彼のことが好きなんだとついに自覚してしまった。
「ストップ、もう言わなくていいから!聞いてて恥ずかしいっつーの」
珍しく照れた様子の彼が慌てて私の口を手で塞いだ。その為、言うはずだった言葉が上手く発音が出来なかった。そして、口を塞がれているので思ったよりも身体はかなり密着してしまっている。そんな様子を見ているルッスーリアはお邪魔かしらと呟いてこっそりと部屋から出て行ってしまった。
「べ、る……さすがにくる、し」
「あ、悪ィ」
私が流石に息が苦しいと声を振り絞って訴えると呆気なく彼は手を離した。ようやく、私の呼吸は楽になった。しかし、無駄に体力消耗して疲れてしまい私はソファに座っていた状態から少しだけ身体を横にした。
「手加減してよね、女の子相手だよ」
「しし、殺し屋のくせに何言ってんだか」
「顔、近いよ…どーしたの、ベル」
「……今からキスするから」
「え、待って冗談だよね」
「するから、もし嫌なら拒否れよ?」
そっと私の唇を指でなぞり、私が抵抗しないことを確認すると優しく触れるように唇を重ねた。ほんの一瞬で私のファーストキスは奪われた。女性誌でよく初キスの感想特集の記事に書いてあった味とか、感触とか私には感じる余裕すらなかった。とにかく、分かることはこのうるさい胸の高鳴りだけだった。
「なんで、キスしたの?」
私は恐る恐る疑問に思っていたことを口にした。もしかしたら彼は私を好き、なんて少女漫画のようなハッピーエンドを期待せずにいられない。しかし、彼は「さあな」と言って悪戯をした子供のように無邪気に笑うと談話室から出て行ってしまった。