護りたいもの | ナノ

 私の人生とは何だったのだろうか。放課後いつものように親友と並んで帰っていたはずだった。毎日毎日平凡ながらも楽しく過ごしてきたのに神様は残酷だった。
私は親友を庇って事故に遭ったのだ。まわりの通行人は驚いて辺りは野次馬だらけ、非日常的な光景に親友は驚いたのか目を丸めていた。
私の体からは止めどなく血液が溢れだして、力を入れようと何度頑張っても体の自由は利かない。

あぁ、私死ぬんだ。

人間の一生とはこんなにも呆気ない。
私まだ十代なのに。
やりたいことたくさんあったのに、今日だって帰りにケーキ屋さん行っていつものように親友とケーキ食べて帰る予定だったんだ。
それなのに、それなのに、どうして。
視界が真っ暗になっていく中、私の名前を呼び続ける親友の声が私の耳に聞こえ続けた。

 気が付くと私は見たこともない場所へと移動していた。何処かの路地裏なのだが日本的ではなく西洋の雰囲気が漂っている。
辺りは真っ暗。
それに先程事故に遭ったと言うのに体は何故か怪我一つしてなくて此処は所謂“あの世”なんだなとすぐわかった。
色々考えていると後ろに嫌な気配を感じて私は恐る恐る後ろを振り返った。

「水森 深緒様ですね」

「御待ちしておりました」

後ろにいたのは如何にも怪しい雰囲気が滲み出ている女性二人組。淡々とした口調で私に話し掛けてくるところも余計怪しさが感じられる。

「誰?」

「貴女は選ばれました」

「貴女は本来ならばあの場で死んでいたはずの人間。」

「ですがこの世界の運命を変えることが出来たのなら」

「貴女は再びもとの世界で生き返ることが可能です」

 私に話す隙を彼女らは与えず要件を話終えると真っ黒のスーツケースを私に差し出した。
どうやら私に拒否権は無いようだ。
“生き返る”などと言う神様に逆らうような行為は本当に可能なのだろうか。
この世界が何なのか私はまだ知らないが私は選ばれたのだ。さっさとやることをやって元の世界に帰るんだ。親友が待っている世界に。
私は彼女らから見るからに怪しいスーツケースを受け取った。すると彼女らは何も言わずにこの場から去って行った。

 彼女らが去り、元から静かだった路地裏がさらに静かになった気がした。
私は路地裏を少し探索するとベンチを見つけたので静かに腰を下ろした。
先程渡されたスーツケースを開くと手紙と衣類そしてこの国の通貨であろう紙の束が入っていた。
手紙には23時に約束の場所へ行けと命令口調で書かれておりその横には場所を示した地図が描かれていた。
そんな地図見ても土地勘が全くと言ってない私にとっては使い物にならない。
さて一体どうしたものか。そんな風に悩みながら地図を見ていると目の前に少年、いや青年と言うべきだろうかいつの間にか私の前に現れた。
ブロンドの髪に高そうなティアラ、季節外れのような真っ暗なコートを着ている少し不気味な雰囲気が漂っている。

「水森 深緒?」

「えっと、あっ、はい」

「なんだ、ただのガキじゃん早くついてこいよ?ボスがカンカンだぜ」

 彼はそう言って私の腕をいきなり掴むと走り出した。
これから私はどうなるのだろうか。
期待と不安が私の心の中を渦巻いていた。
 私は、私の腕を現在進行形で引っ張っている彼に二つ質問してみることにした。

「ここは何処ですか?貴方の名前は?」

「…はあ?此処はイタリアだろ、お前頭イカれた?」

彼の返答の仕方に苛々したが我慢した。
とりあえず此処はイタリアだと言うことが分かったのだから良しとする。
それにしても、何処まで歩けば良いのだろうか。
それに、彼が先程言っていた“ボス”とは一体何者なのだろうか。
そんなことを考えている間に数メートル先に高級そうな車が停まっているのが見えた。
あの車の中にボスがいるのか?
私がぼんやりと考えていると彼は私の腕を離した。

「乗れよ」

「え、あっ、はい」

彼から急かされて車に乗ったはいいが運転手以外誰も乗っていない。

「お前が遅いからボスが先に帰ったってさ」

彼はそう言いながら車に乗り込んで私の隣に座った。
彼の目は前髪で隠れてるから、声のトーンと口許でしか私は気持ちを読み取ることが出来ない。
彼の声のトーンで判断する限り彼は今少し苛ついているような気がした。

「あの、ボスって」

「何お前やっぱり頭イカれてんじゃね?」

ししっと笑いながら首を傾げた彼に私は再び苛々してしまい彼とはもう話さないと心に決めた。



 暫くすると車が大きな建物の前に停車した。
どうやら此処にボスがいるらしい。
彼が先に車を降りて私は慌てて彼の後ろをついていく。
建物の中は豪華絢爛であちらこちらに高そうな置物とかシャンデリアがある。
私が呆然と立ち尽くしていると彼が私を呼んだ。

「何やってんだよ」

「すみません」

「ボスの部屋はこっちだから」

彼は指で長い長い廊下の一番奥を指差しながらそう言うとまた私たちは無言になる。
どうせ彼に何話し掛けても先程のように馬鹿にされるに決まっている。

「なあ」

ふいに話し掛けられた為スーツケースを持つ手に力が入る。
私は渋々返事をして目の前にいる彼を見つめた。

「お前どんな特技あんの?」

「はい?」

「見る限りお前って弱そうじゃん?もしかしてスッゲー術士だったりすんの?」

 彼は何を言っているのだろう。
術士?RPGじゃあるまいし。
もしかして此処はそう言う世界なのか。
最初イタリアと聞いた時は此処は前と同じ世界かと思ったのに。

「…ふーん、オレには言いたくねえのか」

私が黙っていた所為か彼は勝手にそう判断すると歩く速度をあげたので、彼に追い付こうと私も速度をあげた。
するとそんな時間もかからず長い長い廊下の一番奥の部屋の前に着いた。

「こっから先はお前一人で行けよ、ボス例の女連れてきたぜ」

 彼はそう言うと部屋のドアをノックも無しに開けると私を部屋に押し込んだ。
パタンと小さく音をたてながらドアは閉まった。
私は恐る恐るこの部屋の奥の椅子に腰を掛けているボスを見つめた。
すると私の視線に気が付いたボスが私を睨んできた。
私は思わず唾液を飲み込んだ。
こんな冷たい目をした人を見たのは初めてだ。
恐怖で私の身体は震えてしまいそうになったが何とか堪える。

「お前が水森 深緒か?」

「はい」

「…ただの餓鬼じゃねえか」

そう言ってボスは高笑いをすると再び私を睨む。

「あの、私」

「あの女達がお前が此方にいれば必ず良い方へと事が運ぶと言っていたからな」

あの女たち?
もしかして私にスーツケースを渡してきたあの不気味な二人組のことだろうか。

「とりあえずお前にも此処で働いてもらう」

ボスはじろじろと私を見て静かに呟いた。

「働く?」

「ああ。この暗殺部隊ヴァリアーでな」

暗殺部隊と言う言葉を聞いた瞬間私の顔が真っ青になっていくのが自分でもわかった。


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