私の声が届きますように | ナノ


 飛雄への想いを自覚しても私は普段と変わらず毎日を過ごして気が付けばもう一ヶ月が過ぎた。
けれど日が経てば経つほど想いはどんどん大きくなっていった。授業中、寝る前など暇さえあれば飛雄の事を考えた。登下校を一緒にできる時はいつもより飛雄の事を見つめてしまって飛雄からどうしたのかと訊ねられた。
昔から恋の病は治す薬もなくて恐ろしいと言うけれど、まさにその通りだと思った。

「恵は、好きな人いるの?」

退屈な社会科の授業が終わり休み時間になってから私がそう訊ねると恵は驚いたように目を見開いて私を見つめてきた。
突然こんな質問をされたら誰でも驚くだろうけれど恵の反応は突然質問されたからとかそう言った様な雰囲気ではなく思えた。

「と、突然何よ玲子」

「いや、何となく」

恵は不安そうにあたりをきょろきょろと見渡すと口許を手で押さえた。
その様子を見て私は確信した。
恵にも好きな人がいるんだ、と。

「…玲子には後で言おうと思っていたんだけどね、います。誰かはまだ言えないけど」

恵は私に近寄って小声でそう言うと恥ずかしそうに視線を逸らした。
彼女がせっかく教えてくれたんだから私も言わなくてはと思い、私も小声で話すことにした。

「私もね、いるんだ」

「うん、知ってる」

でも私が打ち明けても恵は驚く素振りを見せず、何を今更とでも言いたそうな口調でそう言った。

「え、え?」

「バレバレだよ、バレバレ!あっ、安心してね、好きな人は違うからね」

そう言って恵はいつも見せる悪戯っ子な様な笑みを浮かべた。
お互い頑張ろうねと小声でそう言って私も彼女につられて笑った。

「二人とも次移動教室だけど」

 話に夢中になっていたらクラスメイトの男子二人がそう声を掛けてきたので私たちは驚いた声をあげた。
慌てて時計を確認するといつの間にか休み時間はあと五分しかなくて声をかけてくれた二人以外は誰も教室に残っていなかった。

「ありがとね、国見と金田一」

私よりも先に恵が彼らにお礼を言った。そう言えば、私は彼らとは話さないが彼女はよく彼らと話していた事を思い出した。
私もワンテンポ遅れてだが彼らにお礼を言った。

「別に、礼を言われることじゃないけど」

すると国見くんが小さく呟いてから此方に一瞬視線を向けてから教室から出ていったので
「おい、待てよ国見」と言いながら金田一くんも少し慌てた様子で教室から出ていった。

「…私たちも行こうか」

「うん」

少し様子がおかしな恵と一緒に私たちも教室から出ていった。
その日の部活以外の時間、恵はどこか様子が変だった。


「大丈夫かなぁ」

「そんなこと俺に言われてもな」

「そうだよね」

別に今日は飛雄と一緒に帰るつもりはなかったのだが帰り道に会ったので恵の事を相談しながら帰ることに決めた。

「…俺からしてみたらお前の方が最近変な気がするけどな」

「え?」

私は、もしかして気が付かれただろうかと内心は不安になって焦りながらもそれを表に出さないように気を付けて、聞き返した。

「俺といるとき、目を逸らすよな」

「…気のせいじゃない?」

私がそう言っても、飛雄は納得がいかないとでも言いたそうな顔をして私のことを見ていたが私は何とか、はぐらかせた。
これからは、なるべき気を付けよう、ああ見えて飛雄は色々とカンが鋭い。
元々バレー関係のことならカンが鋭いのだが普段はそこまで鋭くはない。
だけど時々、普段の時もカンが冴え渡っているときがある。
目が合っただけで此方の思考が読まれてしまいそうで怖くなる。
どうか、私の気持ちには気付かないで欲しいと心の中で神様に願った。
そして私は隣を歩く飛雄の横顔を一瞬だけ眺めてから、ゆっくりと足をまた一歩踏み出した。

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