私の声が届きますように | ナノ


 次の日、飛雄と会うのが気まずかった。
でも学校に行く準備を済ませて家から出ると飛雄がいた。
そういえば今日は一緒に行ける日だった。
ああ、なんて声をかけてなんて会話すればいいんだっけ。
頭の中でぐるぐると言葉が回る。いつもの私はどうしてた。思い出せない。

「おい」

「おはよ」

「…おう」

とりあえず挨拶をしたはいいが話題が浮かばず私は結局黙り込んでしまった。
すると飛雄は私の頭を軽く叩くと、行くぞとだけ行って先にすたすた歩き始めてしまったので慌てて私は追いかけた。

いつものように学校に着いてお互いにそれぞれの部活に行く為に途中で別れた。
駆け足で体育館へと向かう飛雄を私はただ静かに見つめていた。

「あっれー?玲子」

「恵か、びっくりさせないでよ」

突然後ろから声を掛けられて驚いた私は肩を少し震わせた。

「ごめんごめん、あれって影山?」

「あ、うん」

私の視線の先にいた人物に気付いたのか確かめるようにそう訊いてきた。
私が答えると恵はニヤニヤと口許を緩ませた。
恵の表情を見て私は慌てて否定すると余計に怪しいと言いたげな目で見つめられた。

「何を否定してるのかなー」

「ああもう飛雄の事は別にそんなんじゃ」

私は言ってから墓穴を掘ってしまったと気付いて口を慌てて手で押さえたがもう遅い。

「いいなぁ幼馴染み」

恵からの視線が突き刺さっているかのように痛い。それに私の顔は火が出そうなくらいに熱くなるし、汗だって運動してるわけでもないのに尋常じゃない。
ああもう!

「とび…影山とは本当そんなのじゃないからね」

「はいはい」

恵は私が否定してもそれを否定ではなく照れ隠しと思ったのか全然聞いてくれなかった。

朝練が終わると急いで着替えた。
恵は用事があるとかで数分前に先に行ってしまっていたので私は少し慌てながら部室から出た。
教室へ向かうため渡り廊下を通ろうとした時だった私の視界の先には飛雄と、一年生だろうか私よりも小柄な女の子がいた。
私が来たことに気が付いていないのだろうか二人とも渡り廊下のど真ん中でずっと立ったままでいる。
私にはこれから起こるであろう出来事が予想できた。

「影山先輩の事が好きです」

私の予想通りの言葉。
女の子の声は数メートル離れている私にも聞こえるくらい、はっきりと大きな声で目の前にいる飛雄に対して告げていた。
飛雄は驚いているのだろうか、それとも喜んでいるのだろうか、私が居る位置からは飛雄の表情が伺えない。

私は不安になりながらも飛雄の返事が気になりバレないように少し移動して、そっと聞き耳をたてた。

「…悪い、そういうの考えられない」

飛雄が気まずそうな口調でそう返事をすると私は不安だった気持ちが一気に吹き飛んだ。
飛雄らしいと言えば飛雄らしいのだが、もしもの事も想像していたので私は安心した。
女の子には悪いけれど私は口許を緩ませた。

女の子が涙を堪えながら渡り廊下から走り去っていき、暫くすると飛雄も歩き始めて渡り廊下から去っていったのを確認すると私も隠れるのをやめて渡り廊下へと足を伸ばした。

私は飛雄の事が好きなんだろう、だからこんな風に心配したり喜んだりするんだ。
気が付いていなかっただけで、きっと、ずっとずっと前から好きだったんだろう。

私が自覚したのとほぼ同じ瞬間、ホームルームの五分前を告げるチャイムが鳴った。

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