「入部希望者?」
「は、はい!」
体育館の隅の方で部活見学していた制服姿の一年生に私は休憩時間に声をかけた。
慌てて返事をする姿が一年前の私たちと重なり恵と目を合わせると笑みが溢れてしまった。
「うちのバレー部は楽しいよ」
一年生の緊張を解すかのようになるべく優しく語りかけていると休憩時間はもう終わったから油を売ってないで練習しなさい!と主将の声が体育館に響く。
一年生に軽く手を振ると私は主将のいる場所へと駆けて行った。
「玲子と恵は…ったく」
「すみませーん」
苦笑いしている三年生に頭下げて再開される練習に頑張って取り組んだ。
練習が終わると一年生から明日絶対に入部届け持ってきますと言われて何だか嬉しくなってしまい私は片付けを行っている時も、にやけそうになってしまった。
もちろんそれは帰り道も続くわけで飛雄はそんな私を見て軽く溜め息を吐いていた。
「なっ、飛雄?」
「お前、そんな浮かれてると新しく入ってくる一年にレギュラー奪われても知らねえぞ」
「はいはい」
飛雄の言葉が少し胸に突き刺さったが気にしない方向でいこう。
そう言えばクラスは離れてしまったけれど何だかんだ言って一緒に帰ってくれるし、飛雄は優しいなと思う。
「でも本当部活楽しい!最近は結構調子良いんだよね」
「お前がレギュラーとか考えたら凄いよな 」
「なにそれ」
「でもお前練習頑張っていたから当然と言えば当然だな」
そう言われて私は入部した頃に早く上手くなりたいと居残り練習や早朝からの自主練習を始めたのを思い出した。
それらは今でも続けてるけれどあれからもう一年が経とうとしてる。
「ねえ飛雄はどうなの?」
「あ?何が」
「部活とか学校楽しい?」
私が何気なくそう訊ねると飛雄はいきなりピタリと歩くのを止めた。
何かいけないこと言ってしまったのかと思い私は慌てて飛雄に謝ろうとした。
「あの、その…ごめ」
「…楽しい」
「え?」
ぼそりと小さい声で呟かれた言葉、飛雄が嘘なんか吐くはずが無いのに、何故だかその言葉を私は素直に受け入れることが出来なかった。
私はこの時、初めて飛雄の存在がどこか遠いと思った。今までずっと近くで見てきたのに、どこか遠くに感じる。
飛雄と私との間に壁を感じたのだ。
そのあと何を話しながら帰ったのか私は全く覚えていなかった。いつもなら、空の色も飛雄の表情も些細なことだって思い出せた。
何て言って家の前で別れたのだろう。それすらも思い出せない。
飛雄の距離を感じたのが私の中で余程ショックな出来事だったのだろう。
自分の部屋に入って部屋のドアに鍵をかけてから私は泣き出した。
今まで一緒にいるのが当たり前で、それがこれからも続くと思っていたけれど、飛雄が遠い。
何かあるなら頼ってくれればいいのに、隠し事されるのは嫌だ。
考えたら私いつも自分の話をしてばっかりで飛雄の話を聞いたことがなかった。
クラス替えをしてから数日経って、飛雄の事を見れる時間が減ったことに気が付き。
それと同時に飛雄がどんな風に過ごしているか知らなかった事にも気が付いた。
私はあんなに話していたのに、考えたら飛雄は自分の事を語らなかった。
私はもしかして信用されてなかったのかもしれない。