私の声が届きますように | ナノ


 飛雄の十三歳の誕生日をいつも通り祝えた私はきっと来年も再来年も祝えるものだと信じて疑わなかった。

大晦日の夜に会って一緒に年を越して初詣に行って冬休みが終わるとまたお互いとも部活の練習に打ち込んだ。
あっという間に冬が終わり、春を迎えた。
大好きだった部活の主将や先輩たち三年生は卒業していった。
そう言えばあの及川先輩も卒業していった。
飛雄は挨拶したみたいだけれど私はあの事から及川先輩をよく思っていないので特に話していないけれど。

考えたら私はバレー以外を特に何もしないまま三月を終えて四月を迎えた。
だけど宮城の春はまだ少し肌寒くて、今年も桜はまだ咲く様子がない。
東京の方では桜が咲いた中で入学式をやるのかと思うと少し羨ましい。

「飛雄はーやーくー!」

 私が呼ぶと飛雄はなにか言いたそうにぎろりと睨んできた。
しまった。今日はいつもと違って始業式だから部活がなくていつもより少し遅く家を出たのだった。
つまり、今の時間帯は通学のピーク時で私と飛雄の約束である二人きりの時だけ名前で呼ぶのが誰かに聞かれら大変だ。
私は慌てて辺りを見渡してまわりに誰もいないことを確認すると胸を撫でおろした。

「おい、大里」

「なあに、影山」

怒られると思い私は伏し目がちになりつつもちらちらと飛雄の顔色を伺う。
きっといつもなら怒鳴っていてもおかしくない。
それなのに今日の飛雄は怒鳴る気配がない。

「早く行くぞ」

「あ、うん」

 一言だけ言って飛雄は止めていた足を動かした。
私は早くも数十歩先を歩く飛雄の背中を追いかけそうになったが、生憎そろそろ登校してくる生徒たちが校門へと集中的に集まる時間だ。
私はぴたりと足を止め、辺りを見渡した。
今はこの道には私と飛雄以外誰一人いない。
今駆け寄って二人で登校してるのを見られたら飛雄は今度こそ怒るだろう。
私は悩んだ末に飛雄から数メートル離れて歩き出すことにした。

途中飛雄はこちらを何回か振り返ったけれどお互い無言のまま学校へと辿り着いた。
すれ違う同級生や先輩達に挨拶をしながら昇降口の前に貼り出されているクラス分け発表の紙を見ようと人だかりが出来ている場所へ私は入って行った。
飛雄は人だかりの中に入らなくても自分の名前が見えたのかさっさと昇降口の中へと入って行ってしまった。

私はというと自分の名前を探すのに時間がかかっていた。なかなか見つからない自分の名前を呟きながら私は必死に一組から探していった。

「大里 玲子…大里 玲子…あっ!」

するとやっと三組のところに名前があったのを確認して私は人だかりから抜けた。
そう言えば飛雄がどのクラスか確認してないけれどもうあの人だかりの中に入っていくのは御免だ。
私は昇降口で靴を履き替えてから溜め息を一回だけ吐き出すと新しい自分のクラスへと向かった。

 勢いよく教室のドアを開けながら挨拶を言うと見慣れた声で挨拶を返されて慌てて教室の奥の方を見た。
すると恵と見知らぬ男子二人がいた。

「恵も三組なの?」

「またよろしくね!あ、玲子」

「なあに?」

「影山くんとはクラス離れちゃったねー」

からかうような口ぶりの友人の声が頭のなかで何度も響いた。
ああ、通りで飛雄の名前を見ていなかったはすだ。
クラス別々になってしまうなんて少し寂しいな、ただでさえ一緒に居ることが出来ないのに残念だな。
私は恵に「何でそこで影山が出てくるの」と笑いながら言って自分の席に着いた。

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