私と飛雄は所謂幼馴染みと言う関係で小さい時からずっと一緒だった。家が隣だったってのもあるけど、親同士が仲良かった所為か飛雄とは性別が違うのにも拘わらず小さい時からよく遊んでいた。
私はてっきりそれがこれからもずっと続くんだとばかり思っていた。
性別なんか関係なくずっと一緒に遊んで中学も高校も同じ所にして毎日一緒に通うものだと信じていた。
「飛雄、飛雄!」
「ったく、そんな大声で俺を呼ぶなよ」
恥ずかしいだろ、と飛雄は一瞬ちらりと此方を向いたがまた直ぐに視線を逸らした。今日は中学校の入学式だ。慣れない制服で少し緊張しながらも無事式が終わると、折角クラスが一緒だったのだから一緒に教室まで行こうと私は飛雄の腕を掴んだ。
「ねえー…飛雄」
「まとわりつくな、ほら行くぞ」
私の手を振りほどくと飛雄はすたすたと行ってしまった。
でもある程度歩くと必ず私の事を待っていてくれる。
私はいつからかそんな飛雄の事が大好きに思っていた。
今はまだ言葉にはできない気持ちをいつか伝えるんだと私はこのときからずっと思っていた。
教室に着くと担任の先生の自己紹介や教科書等の配布と今後の予定について説明を受けて今日のところは解散となった。私は鞄に荷物を入れると少し離れた席に座りながら初日から堂々と眠っている飛雄に声をかけた。
「帰ろ、飛雄」
「…あ?玲子か」
「そうだよ、どうしたの」
「……俺寝てたのか」
「そうだよ、…あ、お母さんたちは先に帰っちゃったよ」
「ちっ…、玲子」
飛雄は荷物を纏めると椅子から立ち上がって帰るか、と呟いた。私は頷くとすたすた歩いていく飛雄の後を追いかけた。下駄箱に上履きをしまうと中学生になるのだからとお母さんにおねだりして買ってもらったローファーに履き替えた。慣れてないので少し歩きづらいけど、スニーカーよりこっちの方が断然大人っぽい気がする。
「あ、待って飛雄」
「遅すぎんだよ、ったく」
校門のまわりには私たちと同じ一年生が両親から写真を撮ってもらっている所為で混んでいた。飛雄はその光景に舌打ちをすると私の腕を掴んで引っ張り校門から離れていく。
「どこ行くの?」
「わざわざあっちの門から出る必要ねえだろ」
そう言うと飛雄は裏門のある場所に私を連れていった。すると先程の正門のようには人が居なかったからすんなりと学校から出ることが出来た。
「おぉ…飛雄と居てよかった」
「俺はお前が色々と心配になってきた」
飛雄は溜め息混じりにそう呟いた。何でだろう、私と居る時の飛雄は普段よりも頼もしい。私がダメな子な所為もあるけど。昔から私たちはお互いを支えて、助け合いながら生きてきた。喧嘩もするけど結局はいつの間にか仲直りしてしまう。
「帰って着替えたらさ、飛雄の家に行ってもいい?」
「別にいいけど、何でだよ」
「自分でもわからないけど飛雄の家に行きたくなったの」
私がそう言うと飛雄はきょとんと首を少し傾げた。
我ながら無理な理由だったと思うけれどそれを誤魔化すかのように私はふふっと笑った。