私の声が届きますように | ナノ


 あんなに綺麗に色づいていた紅葉や銀杏の葉が風に吹かれて散ったのだろか、何気なく視線を向けた校庭の木はどこか寂しく見えてしまった。

季節は秋から冬へと移り変わろうとしていた。

飛雄とは仲直りをしたがもともと学校ではそんなに話せないので話す時間は登校時と下校時だけだ。
私も飛雄も部活の早朝練習の前に自主練習をするのが日課になっているため朝は早目に待ち合わせる。
寒さに身震いしながらも、この間買ったばかりのマフラーを巻いて家から出た。
すると、いつも通りのように飛雄が私の家の前で待っていてくれた。

「おはよ」

「はよ」

お互いまだ眠そうな声で挨拶するとゆっくりと歩き始める。
外はまだ少し暗い。
まだ眠たいながら歩いていると自然といつの間にか眠気がどっかに吹き飛ぶ。
それは飛雄も同じみたいで、学校まであと二十分とちょっと。
そんな少しの間だけれど私たちは話をする。
話の内容は勉強のこと友達のこと、でも一番多く話すのはバレーについてのことだ。

「飛雄はすごいよね」

「そうか?」

「うん、女バレの先輩も言ってたよ“影山はすごい”って」

「ふーん」

 以前、普段は男子バレー部とは違う体育館で練習しているのだが体育館の点検で体育館が使えない時に女子バレー部が、普段は男子バレー部が使っている体育館を半分使わせてもらった。
その時、セッターをやっている女子バレー部の先輩が飛雄を一目見て凄いと褒めていたのを私はよく覚えている。

「そう言えば飛雄は何でセッターなの?」

「あ?何でって…セッターはチームの司令塔だぞボールに触れる回数だって多いし、それに支配者っぽくてかっこいいからな
っておい聞いてんのか?」

「あ、うん…何か飛雄らしいよね」

私が笑いながらそう言うと飛雄は何笑ってんだよと私の頭をわしゃわしゃと雑に撫でた。

「あー!もう髪の毛乱れる」

「知るか」

「飛雄のばかー」

 くだらないこと話しているとあっという間に学校に着いてしまう。
校門の前まで来ると先程あんなに会話をしていたのが嘘みたいに、互いに黙り込んでしまう。
こんな時間だ、同級生や先輩ですら一度も見かけていない。
このまま、黙って別々にそれぞれの体育館へと向かうべきなのだろうか。
私が頭の中で一生懸命考えていると私よりも先に飛雄の方が口を開いた。

「おい」

「なに?」

「帰りはいつも通りでいいか?」

「う、うん」

会話が上手く続かない。何故だろう、学校だからなのだろうか。
本当はもっと話したい、でもそろそろ別れて自主練習を始めないと先輩たちが登校してきてしまう。

「飛雄、今日何日だっけ?」

「は?12日だろ、頭大丈夫かよ」

「あと10日だね」

「何がだよ」

「飛雄の誕生日」

 私がそう言うと飛雄は忘れていたのか驚いた様な声をあげた。
そう言えば、ここ数年はいつもこんな風な反応だった。
元々、飛雄は誕生日を楽しみにするタイプではなかった。
祝われたら嬉しそうな表情はするが私みたいに誕生日が早く来ないかとカレンダーを見て溜め息を吐くなんてことを飛雄は絶対にしない。

「毎年毎年よく忘れねえよな」

「まあね!プレゼントあげるから期待しておいてね」

私は言った直後に言い逃げするかのように軽く走り出した。
すると飛雄が本気で追いかけてくるものだから私も本気で走ったが、すぐ追い付かれて捕まってしまった。
ああ、もっと早く走れば良かった。

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