学校の銀杏の木の葉が段々と黄色に色づき始め、季節はもう秋へと移り変わろうとしていた。
飛雄とは同じクラスなのに気まずくて一言も話していない。
家も隣同士で学校へ行く時間も一緒なのに私は飛雄に話し掛けるのが怖かった。
夏休み中にあんなことを言ってしまい、私は深く反省をしていた。
飛雄だって、あんなこと言われて困っただろう。
今度謝ろう謝ろうと思ってもいざとなると何て声を掛けたらいいのだろうと迷ってしまって結局声を掛けられずにいる。
きっと私は馬鹿なんだと思う。
「ねえ、影山くんと何かあったの?」
「ちょっとね」
友達から心配されるほど私は顔に出やすいのか、情けなくて溜め息を吐きそうになる。
このまま、ずっと話さないままなのは絶対嫌なのに勇気が湧かない。
新学期早々した席替えで私と飛雄の席は前よりも近くなった。
私の斜め右前にいる飛雄を私は暇さえあれば見つめていた。
授業中眠たいのを我慢している姿、もう授業を諦めて寝てしまう姿。
いつもなら、何やってんの!と笑いながらお説教しているのに、今の私にはそれができない。
飛雄は休み時間に他の男子と話したりしないで机に伏せて寝ていることが多い。
理由は早朝練習で疲れているからと言うのと元々飛雄は友達が多くはない為話し相手がいないと言うのもあるのだろう。
飛雄は今どんな気持ちなんだろう。
いくら幼馴染みと言っても相手の気持ちが分からない。
考えたら私今まで飛雄の気持ちを理解しようとしたことすらなかった。
私は急に立ち上がると飛雄の席の前まで行ってから寝ている飛雄の肩を揺らした。
「…んあ?」
「私だよ」
「大里か」
「久しぶりだね」
「…夏休み以来か」
そう言うと飛雄は少し顔を俯いた。
久しぶりに近くでまじまじと見る飛雄は夏休みより大きく見えた。
そんなに時間が経過したわけではないはずなのに何でだろう。
私はそろそろ本題を切り出す前に自分を勇気づける為に小さく深呼吸をした。
「この間は」
私が謝ろうとしたら飛雄は私の腕を掴んで教室から引っ張り出した。
私は突然のことに驚いて目を丸くしながらも何故引っ張るか訊ねようとしようとしたが言葉が浮かばず、その間にも飛雄は教室から廊下、廊下から廊下へと更に歩き始めた。
「ここまでくれば、誰もいねえよな」
わざわざ人があまり通ることのない階段まで連れてこられたが飛雄はまだ安心していないのか、キョロキョロと視線をあっちにまたこっちにと忙しなくしていた。
「飛雄どうしたの?」
「この間は悪かった」
私が訊ねたのと、ほぼ同時に飛雄はそう言って私は突然のことに言葉失った。
謝るのは私の方なのに、飛雄は何故謝るのだろう。
頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
私が驚いていると飛雄は視線を逸らして、そのままボソボソと話し始めた。
「夏休み、結局約束破る形になって悪い」
そう言って飛雄は頭を下げた。
ぽかーんと今にでも口を開けてしまいそうになる私はそんな飛雄を見てなんとも言えない気持ちになった。
「飛雄は謝らなくて良いのに」
ふと、口から言葉が溢れた。
それと同時に私の目にはうっすらと涙が溜まり始めた。
「おいっ、泣くなよな」
「ごめんね、飛雄」
「あー…泣くなよな」
ごめんと繰り返し謝り続ける私の肩を飛雄はぐいっと抱き寄せた。
私たち以外、誰もいない階段で休み時間ぎりぎりまで飛雄は泣きじゃくっている私の頭を撫でて落ち着かせようとしてくれた。
その間は一度も目を合わせてはくれなかったが私は飛雄の優しさが嬉しくて仕方がなかった。