私の声が届きますように | ナノ


 もう季節は夏真っ盛り。
終業式はもう三日前に済んで夏休み満喫中と言うわけだ。
満喫中と言っても部活部活の夏休みで実際休み暇なんかなかった。
でも良いこともあった。
三年生が引退したおかげと言ってしまったらそうなのだけれど恵と私は初めてスタメンに選ばれた。
今度の合宿中に行われる練習試合に出れるのだ。
実は私としてはかなり満足している。
でも飛雄に言ったらバカにされそうだけど。

もしかするとこれは特訓の成果のおかげではないか。
やっぱり頑張れば頑張った分良いようになるんだ。
私は嬉しくていつもよりも頑張って部活に取り組んだ。
この調子でいつかは、レギュラーにならないかな、何て思うけどまだまだ先は遠い。

 体育館の独特の蒸し暑さとか外から聞こえてくる蝉の音なんか気にならなくなるほど必死に必死に練習を続けた。
毎日毎日夜遅くまで私は頑張った。

家に帰る頃には、くたくたになってベッドに倒れ込むと言うこともしばしばある。
飛雄にそう言うとお前は体力が無いからとバカにされたのでもう二度と愚痴を言わないと私は心に誓った。

 夏休み前に飛雄と遊びに行く約束をしたが果たされることはなさそうで私は最近溜め息ばかり吐いている。
夏休みが始まる前に飛雄に内緒であんなに色々と計画していたのに全部意味がなくなった。
毎日毎日部活で来週から飛雄は数日間合宿だし、飛雄が帰ってくる頃には私が合宿に行くことになっている。
互いの時間が噛み合わないのだ。
仕方がないことだと分かってはいるがやはり私は飛雄と出掛けたかった。
二人でお出掛けなんてもう何ヵ月も行っていない。
楽しみにしていたのになぁと私は部活帰りに飛雄の家に行って愚痴を吐いた。
すると飛雄は凄く面倒臭そうに私の話を聞きながら暑いからとアイスキャンディーを口にしている。
私はそんな冷たい反応な飛雄にむかつきながら飛雄のベッドに座った。

 夏休みに入ってからはずっとこうして夜にしか会っていない。
家が隣同士だから出来ることだ。
だけど来週は会えなくなってしまう。
私はそんなことを考えるだけで憂鬱だったと言うのに飛雄は私と会えなくても寂しくも何とも思っていないのだろうか。

「飛雄の食べてるの何味?」

「あ?見て分からねえのかよオレンジ」

「美味しい?」

「普通に」

素っ気ない飛雄の返事に私はむぅと頬を膨らませた。
見て分かるよ。
それでも話したいから聞いたのに。
それに美味しいかどうか聞いたのにその返し方はないんじゃないか。
言いたくても言えない気持ちを抑え込むと心の中が何故だかモヤモヤした。

私は、アイスキャンディーを舐めることに集中している飛雄の顔に視線をやると飛雄はアイスキャンディーを舐めていた舌の動きをぴたりと止めた。

「今日の玲子おかしい」

「…そう?」

「あ、もしかして」

飛雄は何か閃いたような表情になるとふっと笑った。
私はやっと私の気持ちが分かってくれたのかと思い期待しながら飛雄に近付いた。

「食いたかったのなら言えよなまだ冷蔵庫にあったから持ってきてやったのに」

飛雄の言葉に私は固まった。
飛雄は私のことを仕方ない奴とでも言いたげに見つめてくる。
私の中で何かが弾けた音がした。
溢れ出しそうになる言葉と気持ちを抑え私は
顔を俯いた。

「飛雄のばーか」

「あっ?何でだよ」

「帰る」

 私はそう言って飛雄の部屋から飛び出した。
喧嘩と言うわけでもないけれど、やはり何処か気まずくて夏休みが終わるまで飛雄とは一回も口を利くことはなかった。
本当はこんなはずじゃなかったのに。
私は自分の家に帰ると真っ先に部屋に向かった。
自分の部屋に入ると鍵をかけてからその場にしゃがみこんだ。
溢れ出した涙を止めることは、私には出来なかった。

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