私の声が届きますように | ナノ


 あの出来事から一ヶ月経とうとしている。
及川先輩はあれから私に話し掛けることは一切ないが私は警戒しながら飛雄と毎日一緒に帰っている。
今日だってわざわざ校門で待ち合わせて一緒に帰っている最中だ。

「…ねえ飛」

「お前及川さんと何かあったのか?」

「えっ何で」

「この間から、俺に及川さんの聞いてくるし」

飛雄の問い掛けに私は驚いて足を止めた。
確かに私は警戒しすぎたあまり毎日のように飛雄に今日は及川先輩と話したの?とか聞いていればと飛雄だって不思議に思うはずだ。
失敗した。私としたことがこんな初歩的なミスを犯した。

「あのね、実はその」

「悪いことは言わない及川さんはやめとけ」

「はい?」

飛雄の言葉に私は驚いて声が裏返ってしまった。
するとその声に驚いたのか飛雄は目を見開いて私を見つめてくる。

「お、お前及川さんのこと好きなんじゃ」

「何勘違いしてんのっ好きじゃないよ」

そう言えば及川先輩は学校中の女子から人気だった。飛雄が勘違いするのも無理はない。
私は少々慌てながらも必死に首を横に振って否定すると、飛雄はやっと理解してくれたのか「良かった」と呟いた。

「良かった?」

「あ、当たり前だろ!万が一お前が及川さんと付き合ったりしたら俺が困る」

飛雄はそう言うと、しまったとでも言いたそうな顔を一瞬すると黙って歩き出したので私もあとを追いかけて歩き始めた。
飛雄の顔が耳まで赤いのは夕日の所為で、私の頬が紅潮してるのもきっと夕日の所為だよね。
私は自分にそう言い聞かせて無言のまま歩き続けた。


 互いの家が見えてきて別れるまであと数分。
何か喋りたいのに言葉が出てこない。
聞きたいこととか話したいことが山ほどあるのにどう言葉にしたら良いのだろうか。
それにこのまま黙ったままは嫌だ。
私は勇気を振り絞って飛雄の制服の裾を掴むと引っ張った。

「大里?」

「…」

「…あー、どうした玲子」

「あのね、実はその」

 久しぶりに呼ばれた私の名前。
飛雄から名前を呼ばれるだけで私の心臓の音はうるさくなる。
ついのその場勢いで言ってしまいそうになってしまった言葉を私は飲み込んだ。
続きを喋らず急に黙り込んだ私に飛雄は不思議そうに首を傾げる。

「な、夏休みにどっか行かないっ?」

「は?」

続きを言うことが出来なくて誤魔化すために出た言葉は自分でも意味不明だった。
しかも声が裏返っているし、流石にあの飛雄だっておかしいと思うはずに違いない。

「ごめ、何でもない」

「…お前も俺も部活で忙しいだろ」

「だ、だよね」

「それでもいいならいいけど」

 私は飛雄の言葉が嬉しくて持っていた鞄を地面に落とした。
すると飛雄が驚いて声を掛けてきたけど私は鞄を拾う前に飛雄に抱き着いた。
何かものすごく久しぶりな感覚。
年を取るごとに飛雄に抱き着くことは少なくなったが昔はよく抱き着いていたっけ。
私は美しい思い出たちを思い出すと黙っている飛雄が気になって飛雄の顔を見上げた。
どこか不機嫌そうな表情に私は驚いて声を掛けようとした。

「抱き着くなボゲェ!!」

 飛雄はいきなり怒鳴り私を引き剥がすと私の鞄を拾って私に渡した。
鞄を受け取った後も怒鳴られたことに落ち込んでいる私の頭を飛雄はぽんぽんと優しく撫でてくれた。
何だかんだ言って優しい飛雄に私は口許を緩めて再び抱き着こうとしたが避けられた。

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