「フランお菓子頂戴」
「はあ?」
ミーの前に突然現れた先輩はまあなんとも天真爛漫な笑みを浮かべて目をキラキラさせながらミーを見つめてお菓子をくれと言ってきた、子供ですか本当にミーより年上ですか。
「ノリ悪いよ、フラン!今日はハロウィーンだよ」
いや知ってます、と言おうとしたが言ったら言ったらで面倒くさくなるのはわかったから言うのは止めた。それにしてもいい年して仮装して後輩の前に現れる先輩は色々な意味で凄いなぁ、とか思った。ミーだったら絶対死んでもやりませんね。
「名前先輩、その格好は」
「魔女だよ、フラン」
きゃっきゃっと楽しそうにくるりと一回転すれば先輩は何処からか突然杖を取り出した。きっと先輩お得意の幻覚だろう、先輩は喋ると子供っぽいが術者としては一流だ。なのに先輩はヴァリアーで霧の守護者にならない。ミーは初めて会った時からそれが不思議で先輩に直接訊いてみたら先輩は苦笑いしながら教えてくれた。先輩は確かに術者としては一流だがそれは炎が上手く灯せる時だけの話だった。先輩は複数属性持ちで霧の炎だけを…というのは難しいらしい。なので先輩は雲の守護者というわけだ。
本当、もったいないと思う。
「ふーらーん?」
「先輩よく似合ってますねー、本当の子供みたい」
「そうー?ありがとう」
そしてこの先輩には嫌味が通じない。鈍感なのかわざとなのかミーにはいまだにわからない。だから時々子供っぽい言動が実は演技じゃないかって思うことがある。
「フランお菓子ー」
いや、素なのかもしれないが。
「はいはい、ちょっと待っててくださいねー」
ミーは確か飴玉を隊服のポケットにあったことを思い出してごそごそとポケットの中を探ると飴玉が二、三個出てきたので先輩に手渡した。
すると先輩は嬉しそうに笑って飴玉を口に入れた。
これで少しは静かになるだろうと思ったが先輩は飴玉はガリガリと噛み砕いて飲み込んだ。
「美味しかった」
「…先輩ばかですね」
ぽつり、とミーが呟くと先輩はきょとんと首傾げると何か閃いたような笑みを浮かべた。
「フランも食べる?」
「はいー?」
いや、元々ミーのなんですけどと言おうとした瞬間ミーの口は塞がれた、先輩の口によって。
「んっ」
先輩はいつの間にかもう一個飴玉を口に含んでいたようでミーの口に所謂口移しをしてきた。ちら、と先輩に視線を向けると何やら嬉しそうな楽しそうにしていた。はい、ムカついたー、ミーやられっぱなしは嫌ですから。
先輩の肩を掴んで無理矢理先輩の口内に舌を捩じ込み飴玉を先輩の口内へ移動させると先輩の舌と絡ませ飴玉を徐々に溶かしていった。
飴玉が完全に溶けるとミーは先輩から離れて呼吸を整えた。先輩は呼吸を整えながら不満そうにミーを睨んできた。
「フラン!」
「怒らないでくださいよー?先に手を出したのはそっちなんですからー」
「うっ…」
先輩は黙り込んでミーをちらちらと見つめては溜め息を吐いた。ああ、本当にもう先輩は可愛らしい。
「先輩、Trick…」
「悪戯」
「はい?」
「悪戯しなよ」
先輩は不敵な笑みを浮かべながらそうはっきりとミーに言った。いつもみたいな天真爛漫な先輩じゃない、こんな先輩は初めて見る。ああ、やっぱり先輩の素はこっちなんですか。
10月31日
(先輩の本性をミーはこの日初めて知った)