私の目の前にいる男は女子からキャーキャーと持て囃され今日はハロウィーンだから、とか言ってお決まりの台詞囁いてはお菓子を貰って微笑んでまた他の女子に…というのをやって何とも他の男子じゃ真似できないようなハロウィーンを満喫している。
そして朝からお菓子を貰いまくっている所為で彼のカバンにはお菓子がたくさん入っている。彼が両手で抱えているお菓子も合わせたら結構な数になるだろう。まあこんなにもたくさんのお菓子を彼が食べきれるかどうかっていうのは別の話である。
「岩泉、あれ止めてくれば?」
「…無理だな、苗字が止めてこい」
たまたま現れた彼と同じ部活に所属している岩泉に然り気無く止めてくるよう言っても面倒くさいのか無視するようだ。私たちが廊下の窓際で話していると先程まで教室で女子たちと仲良く話をしていた彼がいきなり私の真横に現れた。
「お、及川?」
「名前ちゃん、岩ちゃん何してるの?」
「誰かさんについて話してんの」
「それって俺のコト?」
彼は少し首を傾げて私と岩泉のことを交互に見つめているとまた女子から呼ばれたみたいで廊下を駆けていった。
彼は同級生にも下級生にも人気がある。勿論、彼が1、2年の時は上級生にも人気があって去年も一昨年も休み時間になると彼はあちこちから声を掛けられていた。
ちなみに私はそんな彼に対してお菓子をあげようとか貰おうとかで声を掛けたことが今までなく、私は毎年毎年みんなから引っ張りだこな彼をただボーッと眺めてた。
「いいのか、苗字は」
「何がよ、岩泉」
「お前及川のこと好きだろ、一年の時から」
岩泉の言葉に私は肩を少し跳ねさせ驚きながら岩泉に視線を向けた。
「いつから気付いてた?」
「1年の時のハロウィーン」
「…そっか」
1年のハロウィーン、というと彼にお菓子をあげようと彼の様子を伺ってたがなかなか声を掛けるチャンスがなくて結局女子から囲まれている彼を眺めていただけだったという苦い思い出がある。よく見ているな、岩泉。だけど私が彼を好きなのはもっと、もっと――
「疲れたああ」
「きゃっ」
いきなり背後から抱きついてきた彼に私は廊下だというのに大きな声をあげてしまった。女子にいきなり抱きつくのか普通。全く彼は何を考えているのかわからないが、本当心臓に悪い。
「名前ちゃんでもそんな可愛い声出すんだね」
「うるさい、ばか」
彼は離れようとしない、いや寧ろ腕に力を入れて強く私を抱き締めている。私は岩泉に助けを求めようとしたがあの野郎いつの間にか消えてやがった、あとで覚えてろよ岩泉。
「名前ちゃん、岩ちゃんと何話してたの?」
「な、なんでそんなこと聞くの」
「だって気になるんだもん」
私の耳元で囁くように彼はそう言った。ただでさえ抱き締められているので恥ずかしいやら嬉しいやらで顔が赤くなっている私に対してこんなことしてくるなんて、私を殺す気か。
「そろそろ離してよ、」
「やだ」
「なんで?」
「何話してたか教えてくれたら離す」
「だからなんで及川に言わなきゃいけないの」
「名前ちゃんが岩ちゃんと話してたからデショ」
「だからなんで」
「好きな子が、他の男と楽しげに話してれば気になるんだよ」
彼の突然の告白に私は廊下だと言うことを忘れて大声を出してしまった。すると廊下にいた生徒が一斉に此方に視線向けたが、彼が笑みを浮かべながら「ごめんごめん何でもない」と適当に言うと生徒たちは視線を元に戻した。
「な、な、及川…っ」
「驚くことないじゃん、名前ちゃんだって中学の時から俺のこと好きだったしさ」
「は…なんで知ってんの、」
「見てればわかるよ」
彼はそう言うと私を抱き締めていた腕を離した。何でバレていたんだろう、私が中学時代から彼のことを好きだったなんて…
「…っ、及川はその」
「ん?」
「本当に私のこと」
「好きだよ、俺が嘘吐くと思う?…ってその疑った視線はやめようよ」
「だって、信じられない」
私がそう呟くと彼は私の頭を撫でた。私はちら、と彼の顔を確認してみたが彼はいつもとは違う真剣な目をしていた。だから、嘘じゃないんだと理解はしたが理解したらしたらで浮かぶ疑問とかもう色々な感情が入り交じって頭が混乱しそう。
「ねえ、及か…」
「名前ちゃんお菓子ちょうだい」
「このタイミングでいう、普通」
「だってさ、名前ちゃん毎年お菓子持ってきてる癖にくれないじゃん…あ、家庭科の調理実習で作ったお菓子とかバレンタインデーのチョコレートとかも」
「黙れ」
彼の先程の真剣な目は何処にいったのやら、いつもみたいにヘラヘラ笑いながら何でも知っているように話す彼に私は少しムカついて彼に向かってお菓子を投げた。
「いっ、」
「ばか及川…とりっく、おあ、とりーと」
私がそう辿々しく呟くと彼は口許を微かに緩めて私を抱き寄せた。
お菓子くれなきゃ
悪戯するぞ
(俺、お菓子持ってないから悪戯していいよ)
(ば、ばかっ)