「………あ」


 息が詰まりそうな程の静けさに耐えかねて起き上がったら右側に神奈、左側に穂鷹がベッドに突っ伏してた。

 ホントにずっといたんだ……。

 呼吸が浅くてなかなか空気が送れなかったのに、二人を見た途端スーッと肺に入るようになって。

 こういうのを安心感っていうんだろうか。

「熟睡してるし」

 病人の隣でよくこんな寝れるなコイツ等。移っても知らないぞ……。

 でも
 ちょっと嬉しい

 そんなくすぐったい気持ちを誤魔化すように穂鷹の頬をつついてみる。
 一瞬瞼が震えたけど、それ以上の反応はみせない。

 鼻でも摘んでみようかと思ったら、反対側から手が伸びてきて押し倒された。

「……ぅっ!!」

 ベッドだからそんなには痛くなかったけど、衝撃はあって息が詰まった。

しかも腕が……首に巻き付いて苦し……

「か……神奈っギブ」

 神奈の腕をどうにか外そうともがくけど、がっしりホールドされてしまっている。

「神奈ってば!」
「黙れ。もう少し寝てろ」

 起き上がったと思ったら、掠れ気味のいつもより低音で凄まれた。

 いや、まず腕を放してくれないと寝るに寝れないんだけど。
 しかもコイツ何気に機嫌悪い?

 自分じゃどうにもなりそうにないから穂鷹に助けてもらおうと髪を目一杯引っ張って起こす事にした。

「いだだーって、うわ……。響それはちょっと止めたほうがいいと思うよ」

 穂鷹はそう言って私の首を締めたまま二度寝しようとする神奈の腕を剥ぎ取ってくれた。

「可哀想に、涙目になってる」

 人差し指で私の目の下をなぞる。
 うん、めっちゃ苦しかった。

「くそ! 神奈め」

 まだ寝てる神奈の頭をひっぱたいてやったらゆっくりと立ち上がって、私を見下ろしてくる。

 怖えー!!

「か、神奈?」

 私が言うのが早いか、突然に神奈が覆い被さってきた。

「ぎゃーーー!!」
「わーー!! ひ、響!?」
「煩ぇ……」

 寸での所で肩を支えて顔同士がぶつかるのを阻止。
 するとすぐさま穂鷹が神奈を押し返してくれた。
 神奈は耳を押さえながら気だるそうにもう一度立ち上がる。

「何のつもり」
「精神的にダメージを与えるなら、これが一番かな、と」
「な!」

 意味が解らない。これは寝起きが悪いなんてもんじゃない、最悪だ!

「与えるな。こっちは病人だぞ!?」
「関係ないな。先に手出したのはそっちだ」
「……もぅ絶っ対に熱上がったぁ」

 ぐったりした私の額に手を当てて「ありゃ」とか穂鷹が言ってる。

 二人とも看病する気あるのか無いのかハッキリしてくれ。
 いっそ家に帰ろうかと起き上がりかけた時、両手が塞がれた。

 二人が片方ずつ握ってる。
 熱のある私よりも体温の低い彼らの手はやっぱり少し冷たくて気持ち良い。

「俐音ちゃんにオレ達の元気を分けたげる!」
「それか、俺等に移してでもいいから早く治せ」

 言ってる事おかしくないか?真面目な顔して何か今の二人って変なの。
 なのにどうしてこんな安心するんだろう。

「……おやすみ」

 だから私は逆らわずに目を瞑った。

 ここに入って来た時の嫌悪感とか、怖い夢を見た後の震えとか。
 そんなもの全部どこかに吹き飛んで、今あるのは心地良い眠気と二人の体温。

 どうか早く元気になりますように。誰にも移りませんように。

 どうかどうか目覚めた時にこの両手が離れていませんように。


 私は二人の手を握り返して眠りにおちた


end

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