「あははっ、ごっめんねー? オレってば色気があってー」
「ゆるさん! 跪いて詫びろっ!! この色魔がっ!!」
「しっしきまぁー!? しき、色魔って、はっもうお腹いた……」

 色魔がツボにはまってしまったらしく、緒方先輩は笑いすぎて息も絶え絶えだ。

「俐音ちゃんヒドイー! 襲うぞー」

 言うより先に穂鷹が抱きついてきた。

「わっ、やめろバカ」
「オレ色魔だから」

 どうやら穂鷹の方は色魔発言がよほど気に食わなかったらしい。

「あーもう鬱陶しい!」

 暴れてもビクともしない穂鷹をどうしてくれようかと、思考を巡らせていると横から腕が伸びてきた。

「うぐっ!?」

 真っ直ぐに穂鷹の首へ向かった手はそのまま綺麗な指を絡ませる。
 その手の主は、薄い笑みを浮かべた壱都先輩。

「人助け、しないとね。ヒーローだし」

 そう言って私を穂鷹から引き剥がしてくれたのだけれど、今助けが必要なのはどっちかというと(瀕死状態の)穂鷹の方だと思われる。
 自業自得だけど。

 先輩が手を離した途端に穂鷹が勢い良く咳き込んで、大分力を入れて首を絞めていたらしいと気付く。

「だ、大丈夫か?」
「ん……」
「壱都先輩いくらなんでもこれは」
「ん? 成敗」

 ああ、笑顔が眩しい。何だってそんな晴れやかな顔してるんだ。

「意味を履き違えてるな」

 小暮先輩の冷静な突っ込みも虚しく壱都先輩はニコニコと笑って私の髪を撫でているだけ。

「ねーえ、ところでさぁー」

 いつの間にかソファに座ってテーブルに肘をつき、手に顔を乗せた状態でこっちを静観していた緒方先輩。

「掃除どうすんの? 僕もう疲れちゃった」
「俺もう帰るぞ」

 すっかりとやる気を無くした先輩は怠惰な態度でテーブルの上に置いてあるお菓子を手で遊んでいる。

 そして神奈は自分の持ち場のみの掃除を終わらせて、鞄を手にとって出て行こうとしてる。

「さーせるかぁ!! 自分だけさっさと片付けやがって。手伝えよ! 正義の味方なんだろ? カレー野郎」
「サボってたお前が悪い。ってか、手伝ってもらいたいなら、それなりの態度をとれよ。それに俺は正義の味方になったつもりはない」
「明らかに悪だもんな。ああ、悪だ。困り果てて途方に暮れている私を突き放して帰るなんて、とんだ悪人もいたもんだな!」

 鞄を握って出て行けないようにして睨みつけてやった。
 上から冷ややかな目線が降り注いでくるけど負けるもんか。

「さっき女の自覚がどうとか失礼な事ぬかしてたしなぁ?」
「かなり時間差できやがって……手伝ってやってもいいが明日の昼奢れよ」
「カレーな!」
「何でもいい」

 よし、カレー決定。神奈の気が変わる前に取り掛かろうと、さっそく作業を再開する。

「掃除するだけなのにここまで時間を潰されるとはな」
「そもそも、緒方先輩が変な物出してこなければ良かったんですよ」
「えー、僕のせい?」

 勢い良く振り返った緒方先輩の頭の上で星が揺れている。

「いい加減そのカチューシャ取ってくださいよ。目障りです」
「何で!? 気に入ってるのに!」

 先輩は星をむんずと掴んでカチューシャを取ってゴミ箱に投げ捨てた。
 気に入ってたんじゃなかったのか。

「もう早くやっちゃおう!!」

 やっと本気で片付け始めたけど、結局終わったのは夕方が過ぎて夜になってのことで。

 帰ったのは何時までも電気がついているのを訝しんだ増田が「テスト前の貴重な時間に何やってんだ馬鹿め」という生徒を思いやる心を微塵も感じさせない言葉と共に追い出されてからだった。


end

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