右を向いても、左を向いても魚、魚、魚。

 これだけの魚を食べきるには一体、どれだけの日数が必要だろうか。

 そんなくだらない会話をしながら進んでいくと一際大きな、壁一面がガラス張りのフロアに出た。
 薄暗い部屋の奥に更に暗い水の中が見える。

 照明がほとんどないから、かなり近くまで行かないと中の様子は見られない。
 だけど何となくそこに行くのが怖くて足が進まない。
 何に対してなのか分からない恐怖感が沸々とわいてきて近寄りたくないと思った。

 たかが魚を見るだけなのに。
 そう思っても足は動いてくれない。

「俐音ちゃん見ないの?」

 もう先に行ったと思っていた穂鷹が私の隣に立って覗き込んできた。
 見ないんじゃなくて、見れないんだけど。そんなことバカ正直に言わない。

「先に次のフロア行く?」

 逆隣に壱都先輩が立って私の手を引いた。
 穂鷹も何故か手を繋いできて、何も行っていないのにこのフロアを出ようとする。

 傍から見たらさぞ不思議な光景だろう。

 お父さんとお母さんに手を引かれて歩く子どもみたいだ。
 じゃあこの場合は父親が穂鷹で母親が壱都先輩か?

 あ、やめよう。これ以上は考えない……。

 二人のお陰で、自然と入っていた肩の力が抜けて私はしっかりとした足取りでそのフロアを後にした。





「わー、見てる見てる」
「睨めっこになってるよ」
「交信してんじゃねーの?」
「それ日本語?魚語か?」
「俐音って魚語解るんだ……」

 解るか。
 皆が好き勝手言いまくってる間も私は目の前の小さな魚をただ只管に見つめる。

 どうしてだかコイツは私のほうを見たまま動こうとしないから、私も目を逸らせない。
 これは先に視線を外したほうが負けなんだ。

「鬼頭そろそろ行くぞ」

 さすがに飽き始めた周囲のせいで、私はしぶしぶ魚から視線を外して移動する。

「あの魚って何語りかけてきてたの!?」
「知りませんよ。分かるわけないじゃないですか」
「そうなの? あんな長い間見詰め合ってるから絶対語り合ってるんだと思ってたのにー」

 んな無茶な。
 緒方先輩は私を何だと思ってるんだ。
 魚と語り合った日には、もう二度と魚食べられなくなるじゃないか。

「私はアイツが勝負を挑んできたから乗ってやっただけですよ」
「……いや、それ十分通じ合ってるから」
「え、そうなの?」
「俐音はすごいね」

 褒められちゃったよ、でも全然嬉しくないな……。折角なのにごめんなさい壱都先輩。

 水族館を満喫して晩御飯を食べれば外はもう暗くなり始めていた。

 そのまま帰るのかと思いきや、人気のない海辺へと連れて行かれ。
 海面に月が浮かんで見える幻想的な景色を六人貸切状態で思う存分堪能する。

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