「楽しんでますよね」
「え? なに言ってるのよ。私は俐音ちゃんに可愛くなってもらおうと全力を尽くしてるだけよぅ」
「……でもかなり楽しんでますよね」
「まぁ、楽しいか楽しくないかって言われたら、それはもう爆笑したくなるくらい楽しいけど」

 爆笑……。この場合やっぱり私が笑われるんだよな。
 おもちゃにされた上にそれってかなり可哀想じゃないか?


 緒方先輩が言い出した皆で遊びに行くという計画は見事に決行されることとなり、何故か一足先に高奈さんの店へと来さされた私。

 そしてまたまたメイク室へと連行されデジャヴかと思われるほど穂鷹と出掛けた時と同じ処置を施されてゆく。

「……またこんな高そうな服、前ので良かったですのに」
「着飾るのは女の子の特権よ? 手抜きなんてしちゃダメ」

 タダで貰えるっていうんだから有難いんだけど、ミニスカートなんですよね。
 絶対穂鷹が裏で糸を引いているに違いない。

 しかもスカートを手に取った瞬間、私の表情が曇ったのを見て高奈さんは嬉しそうに笑っていた。

 顔の造形は穂鷹とほぼ同じなのに、どうしてか緒方先輩とだぶって見える。人の不幸を餌とする小悪魔的な……。

 この母親に育てられて、どうして穂鷹はヘタレになったのか……。
 けど、もし性格までそっくりになってたら私は緒方先輩が二人いるような学校生活を送ることになったということで。

 穂鷹、ヘタレに育ってくれてありがとう。
 今初めて心の底からお前が今のお前であって良かったと思うよ。

「さ、出来た。今日は楽しんできてね!」
「ありがとうございます。けど、本当に服もらっちゃっていいんですか?」
「いいのよぅ。後で穂鷹に請求しとくから」
「え……」

 息子からとるんですか。冗談なのかもしれないけど、高奈さんならやりかねないような気もする。

「穂鷹ー、俐音ちゃん用意できたよ」
「はいはーい。お、ミニスカだー! 萌えーってやつだねぇ」

 ……ま、いいや。コイツに払ってもらっておこう。

「皆は?」
「もう来てる」

 表へ出て行ってみれば、営業妨害だろうと思われるほど入り口付近で四人が固まっていた。

「わー、ホントにリンリンがスカート穿いてるー!」

 信じられないと緒方先輩は眼を丸くした。

「よく似合ってるよ」

 頭を撫でながら上から下までまじまじと眺めてくる福原先輩。
 ていうか見過ぎ。穴空きそうなくらい観察されてる……。

「で、どこ行くんですか?」
「始めはボウリング大会にしようと思ってたんだけどね、リンリンがミニスカだし水族館にした。ダメ?」
「いえ、水族館って行ったことないので嬉しいです。ボウリングもないですけど」
「あ、ホント?よかったぁ。じゃあ今日は存分に堪能しよ!」

 緒方先輩や、他の皆のこういう所は本当に助かる。
 気を使ってくれてるのか、自然とそうしているのかはわからないけど、私が深く聞かれたくないと思うことは、軽く流してくれる。

「俐音、ここの水族館にはシロナガスクジラがいるんだよ」

 ゲートを潜り、どんなのがいるんだろうとわくわくしていると、それを見抜いたように壱都先輩がそう教えてくれた。

「え……ホントですか?あんな大きいのが!?」
「そんなもんいねぇよ」

 私がほんの一瞬抱いた喜びを神奈の言葉が打ち砕いた。だが、ここで非難をすべきは柔らかい笑みを称えながら意味のない嘘をついた壱都先輩だろう。

「……なんでそんなデタラメ言ったんですか」
「そうだったら面白いなぁって思って」

 貴方の希望で私を惑わさないでください。

 いつの間にか前を歩いていた三人とだいぶ間があいてしまっていて「置いてくぞ!」と小暮先輩に言われて、慌てて小走りに駆け寄ったのに、福原先輩と神奈は自分のペースを崩さずに歩いてきたため、私の努力は全くの無意味に終わった。

 少しは協調性とか養え。


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