::月が海に浮かぶ 「ねえリンリン、僕のこと好き?」 部屋に入ると同時にドアに背中を押し付けられて顔を間近に持ってきた緒方先輩はそう尋ねてきた。 「何ですかイキナリ」 「いいから答えて」 「(人間的にどうかって言われたらそれはちょっと、いやかなり難があると思うけど)嫌いじゃないですよ」 「含みを感じたけど、まあいいや。だったらデートしようよ!」 「はぁ!?」 何でそういうことになるんだ? 全く話が見えてこないんだけど。 「イヤです」 「なんでさー! ほーちゃんとは良くても僕とはダメだっていうの!? ほーちゃんにはこんなカッコまでしといてー!」 鼻につきそうなほどケータイをズイと目の前に出してきて「これ!」と緒方先輩は怒り気味で言うけど……。 「近すぎて逆に見えませんって!」 ケータイを押しのけて画面が見やすい位置まで持ってくると、画面いっぱいにこの前穂鷹に付き合わされた時の私が写っていた。 私は全然違う方向を向いていて、これが無断で撮られたことを物語っている。 第一撮られた記憶なんてどこにもないし。 「おい、穂鷹これはどういうことだよ!? お前また性懲りも無く……」 私が緒方先輩に詰め寄られてる間も神奈たちと談話していた穂鷹に矛先を向ける。 「ち、違うよ! それ撮ったのオレじゃなくて母さんだって! メールで送ってきたの」 「た……高奈さん? 何だってお前ら親子はそんな激似なんだ!」 「うーん、やっぱ遺伝子が半分一緒だからかなぁ」 真面目に答えてんじゃねーよ! 「ねーいいじゃん、今週の日曜空けといてよ。つーか空けとけ。皆でお出かけしよ」 異様に明るく、尚且つ威圧感のある笑顔を振りまく緒方先輩。 決して無邪気とは言えない先輩に付き合わされたら体がいくつあってももたない。 ていうか、皆でお出かけはデートじゃないだろ……。 私一人じゃ対処しきれないので私の側についてくれそうな福原先輩と小暮先輩にヘルプ信号を送った。 二人はすぐにそれを察知して反応してくれたのだった。 のだが 「俺も鬼頭の生スカート姿を生でみたいな」 壱都先輩、生って……。変態オヤジみたいな発言やめてくれ 「たまには皆で遊びに行くのもいいじゃないか」 くそっ、こっちは家族思いのいいお父さんみたいなセリフ吐きやがって。 いい人のオーラ出まくりなんですよ、小暮先輩は……! 「夏に泊まりに行ったじゃないですか」 「だって、どっちもリンリン男の子みたいなカッコしかしてないんだもん!」 どうやら、どうしても私に女の子らしいカッコをさせたいらしい。 「イヤです。男五人の中に女が一人で街歩くなんて構図おかしいじゃないですか」 「そんなの気にしちゃダメ。むしろ喜ぼうよ!」 無理だろ。 私は人様の好奇の目に晒されるなんて真っ平だ。 ただでさえコイツ等目立つんだから……。 一歩も引こうとしない緒方先輩と、それに肯定的な壱都先輩に小暮先輩。 そして我関せずな神奈と穂鷹。 「穂鷹、お前のその犯罪紛いの写メのせいでこうなったんだ、テメーがどうにかしろ」 「えー無理だよー。馨は言い出したら聞かないのは俐音ちゃんだってよーく知ってるじゃん。もう諦めて一緒に遊ぼ?」 「簡単に諦めるな、希望をすてちゃいけない」 「遭難した時みたいな科白だね」 すでに三人を味方につけ余裕綽々な緒方先輩。 仕方ない。最強の切り札見せてやるよ! 「神奈っ! お前から何か言ってやってよ」 「は? 行きたいっつってんだから、行けばいいじゃん」 ……切り札は破り捨てられた。 こんの役立たずが! 「私は行きたくないんだってば! しかもお前はパスする気満々かよ!」 「関係ない。いってらっしゃい」 軽くあしらう様なその態度にカチンときた。 そうはいくか、コノヤロウ。 「分りました、先輩。行きますよ」 「やった!」 「そのかわり。そのかわり神奈も一緒に行くのが条件です。あいつが行かないなら私も絶対行きません」 「じゃ、響も強制連行決定」 いともあっさりと緒方先輩は言い、誰も反論しようとしない。 当の神奈以外は。 |