「そういえば響っていっつも現代文だけ点数悪いよな。何で?」

 尋ねてみると、何故か響は答えず穂鷹は噴出した。

「俐音ちゃんってコイツの解答用紙見たことない? もう見事だよ」
「?」

 思い出したのか、笑いが止まらなくなってしまった穂鷹を放って、気になって仕方がない私は響に向き直った。

 答えたくないらしく暫く黙っていたが、その態度さえも穂鷹の笑いを誘う結果となり、響は私のペンケースを穂鷹の顔に投げた。

 わざわざ私の投げるなよ。
 変形したらどうしてくれるんだ。

 穂鷹の手元に転がったペンケースを素早く取り戻して、机の中に仕舞う。

「俺は他人の心が読み取れるような超能力は持ち合わせてないんだ」

 意識がペンケースにいってたのと響の声が小さかったのとで、言葉の意味を理解するのに少し時間が掛かった。

 反芻してみてから、ああと納得。

 物語の登場人物の気持ちだとか、言葉の意図を汲み取れないという事だろう。
 なんとも響らしい理由だ。

「ひび……お前、深く考えすぎだって……」
「声が震えてるぞ」

 だって笑える!!
 真面目な顔して主人公の心情考えてる響とか、しかも悩んだ末に結局分からなかったとか!!

 その答案用紙に書いては消し、を繰り返した跡が残ってたら完璧だ。

「こんなもん解ける俐音の方がよっぽど変だと思うがな。同じ境遇に立ったこともないのに何で分かんだ」
「バカだな、他人の気持ちじゃない、模範解答を考えるんだよ!」
「……お前って嫌な人間だな」

 折角アドバイスしてやったというのに、なんて言い草だ。

 逆隣では穂鷹がまだ笑いを堪えていた。
 手が震えてプリントに書き込んでいる文字がミミズのようだ。
 よっぽど響の回答が面白かったのだろう。かなり見てみたい。

 穂鷹自身はきっとこういうの考えるのは得意だと思う。

 客観的に状況を把握できればコイツは驚くほど他人の考えを読む事が出来る奴だから。
 ただ、自分自身が絡んだ途端にそれが狂ってしまう。


「不器用な奴め」
「ん? 何?」

 何となく不憫になって穂鷹の頭を撫でたら、意図が掴めないらしくキョトンとしている。
 だけどすぐに私の手を取ってニッコリと笑顔を作った。

「なあに?」
「あ、うん。ごめんだから離せ」

 勝手に触ったのは謝るから、両手でしっかり握るのやめて。
 手つきがいやらしい!

「穂鷹はタラシじゃなかったらいい奴なのに……」
「タラシじゃないよ! 何その誤解!?」
「だってこうやって女の子口説いてるんだろ?」
「してないって。俐音ちゃんにしかしてないよ!」

 真剣な眼差しで見つめてくる穂鷹だけど、私にこそしてほしくない。

「セクハラ反対」

 穂鷹は思い切り顔を顰めた後に深い深い溜め息を吐き出した。

「俐音ちゃんは国語の問題は解けるのに最愛の友達の気持ちは微塵も理解してくれませんでした、まる」

 プリントにカリカリと書きながら恨みがましい目で見てきやがる。
 なんだよ、その下手な感想文。最愛とかいい加減にしろよ。

「意味分からん! べたべた触られて怒るべきは私の方なのに! 穂鷹のアホ」
「ほらー、またそうやって心無い言葉でオレの繊細な心を傷つけるー」
「繊細……一度冬のプールで溺れろ! しかも私か? 私が悪いとでも言いたいのか。どう思うよ響!?」

 アホ鷹とこれ以上会話を続けても無意味だと悟った私は話を響に振った。

 黙々と私のプリントを写していた響が顔をあげて、面倒くさそうにさらりと言ってのけたのだった。

「完全に、全面的に俐音が悪い」
「えぇー!?」
「でしょー? ほらね。だから言ってるのにー」

 そうなのか……? 全然私の何がいけなかったのか検討もつかないんだけど、でも

「ごめん……」

 傷つけてしまった事も、それに気づけない事も。

「本当にごめん……」
「え、わ、うそ……」
「あーあ」
「いやいや、響も共犯!」

 慌てた様子で穂鷹が立ち上がって私の隣に来てしゃがみ込んだ。

「泣いてる?」
「誰がだ、馬鹿」

 下から覗き込んでくる穂鷹の顔を両手でバチンと挟んで、ついでに頭突きをする。


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