そこ行けってか。添い寝しろってか。

 前から思ってたんだけど三輪の私に対する認識ってどうなってるんだろう。

 別に女だって言った事はないんだけど、やたらとベタベタ甘えてくるし。
 俐音って呼び捨てだし。

 おいおい先輩はどうした、私二歳も年上なのに。
 何度訂正しても直らず終いには「諦めたら?」と壱都先輩に言われて泣く泣く折れた。

 話が逸れたけど、これは男に対する態度じゃないよなぁと思うわけで。
 野生の勘というやつだろうか。
 侮れない兄弟だ。

 曇りなき眼(まなこ)で見つめてくる三輪に根負けしてベッドによじ登る。
 なんつーか、ちょっと憧れてたんだ実は。

 大型犬と添い寝ってのをやってみたかったんだパトラッシュ。

 横になるとすかさず三輪がにじり寄ってきて腕にピタリとくっついた。

 どうよこのスキンシップ。壱都先輩だってここまでじゃないんですけど。

 当たり前かもしれないけど、初めはこんなんじゃなかった。
 ある日この部屋で壱都先輩とまったりしてたらバーンって三輪が入ってきて。バーンってね。

 だけど私を見てそこで立ち止まり、こいつ誰だと睨まれたものだ。
 そんな事を二三度繰り返すうちに打ち解けて気が付けばこうなってた。

「俐音次はいつ来る?」
「決めてないけど……なに寂しかったのか?」

 中等部の校舎は随分と離れた場所にあってばったり顔を合わせるなんてない。
 ここだって私が来ても三輪が来なかったり逆だったり。
 そんな頻繁には会えない。

 今日は二週間ぶりくらいだろうか。

 三輪はぐり、と額を肩に押し付けてきて寂しかった事を肯定する。

 私は唇を噛んで反対側に顔を背けた。

 なんっなんだコイツ!!
 これで何度目だよ、何回言わせるつもりだよ可愛い!!

「俐音?」

 肩の震えが伝わったらしく訝しんだ三輪が顔を覗き込んでくる。
 必然的に圧し掛かられる体勢になるわけで。

非常に、おもい

「み、みわ……おも……」

 腹の底から搾り出した声で訴えると三輪はパッと目を輝かせた。

 あ、絶対何か勘違いした。
 自分の都合のいいように解釈して勝手に喜んでるときの瞳の煌めき具合だ。

 もう! 何をどう解釈したのか言ってみなさい! 絶対間違えてるから

「俐音メガネ外す?」
「なんて予想外!!」

 まさかまさかここで存在を忘れがちなメガネにスポットが当たるとは。
 しかもそれでどうして喜んでるのか皆目見当もつきませんよ私。

「三輪、寝ちゃ駄目だよ」

 ずっと黙っていた壱都先輩が静かに諭した。

 どうやら三輪が言いたかったのは「メガネを外して本格的に寝ちゃおうぜ」って事だったらしい。

 お兄ちゃんに怒られてしゅんとする三輪の頭を撫でる。
 そうだよな、惰眠を貪りたいよな。

 慰めると三輪はまた圧し掛かるように抱きついてきた。
 加減を知らない力で。

 苦しい、マジで。
 背中を叩いてみても服を引っ張ってもビクともしない。

「三輪! みーわ、みわー……離せこのみわんこ!!」

 我ながらうまい事言ったとか満足してる場合じゃない。
 手に力が入らなくなってきた。

「……あの、お花畑が見えてきたんですけど。川の向こうで菊が虫取り網振り回しながら私の事呼んでる……」
「菊さんはこっち側の人でしょ」

 圧迫が無くなってまだ霞む視界で捉えたのは、壱都先輩が三輪の襟首を掴んでぽいと放り投げたところ。

「毎度毎度お手数おかけします」

 よろよろと起き上がると壱都先輩が背中を摩ってくれた。
 先輩はいっつもいっつも度が過ぎる三輪のスキンシップから救ってくれる。

「甘やかしてばっかだと躾けにならない。飼い主の言う事聞かなくなるし」
「でも可愛くって……」

 あれ、これブリーダーとベタ可愛がりするだけの駄目飼い主の会話みたいだ。
 ていうか先輩も弟を犬扱いしてますね。今の発言そうですよね。

「三輪。三回回ってワン」

 壱都先輩はぴっとフローリングの床を指す。そこでやれと。

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