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「俺がお前らに手錠かけたんだから自業自得だろ。というより、そもそもの原因は担任にある」

 謝るべきはアイツだ。
 そう言って今度こそペンキを取ってハケにつけ、既に引いてある線をなぞる。

 立った動こうとしない穂鷹に「何?」と訊くと「あ、オレもこれ手伝う」と歯切れの悪い返事が返ってきた。

 穂鷹の反応を怪訝そうに見つめた。

「どういう了見?」

 言うと同時に視線が逸らされたのが何だか変な感じがした。
 視線をかわすのが上手い穂鷹が、あからさまに目を逸らすのは珍しい。

「や、その、なんとなく」
「へえ、なんとなくでああも避けてくれるわけね」
「ごめんって! ……あーもう、そんなすぐにクセが治ったりしないんだよ」

 しゃがんでハケを掴み、もう片方の手で罰が悪そうに長めのオレンジ色の前髪を掻きあげた。

 俐音がクセ? と首を傾げると子どもみたいに口を尖らせる。

「人の目が怖いの! 自分がどんな風に映ってるか分からないのに見られるのは好きじゃない。壱都先輩はそのトップだね」
「あぁ、でも壱都先輩はありのままを見る人だから、やましい事がなければ怯える必要ないと思う」

 それに、と俐音は続けた。
 壱都は見えてしまう事を嫌がっている風だから、意識して他人を見ないようにしているんじゃないだろうか。

「どっちかっていうと……」
「ん?」
「いや。とにかく、お前は相手の感情に過敏すぎるんだよ」
「そーなのかな――っだ!!」

 穂鷹がいきなり前のめりになった拍子にペンキのついたハケを思い切り前に押し出して、一本の青い線が板に不自然に引かれた。

 あ、良かった。はみ出してはない。

 それを確認してから穂鷹の後ろを見ると重そうな木材を穂鷹の背に乗せて見下ろしてくる神奈がいた。

「人が汗水たらして力仕事してるっていうのにいい御身分だな。こっち人足りないから手伝え、だそうだ」
「……この痛々しい細腕にやらせる気か」

 ハケを持ったまままだ赤みの残る腕を見せた。

「自分で言うな。じゃあ穂鷹お前手伝え」
「えー、ヤダよ。ほらオレって力仕事のイメージないじゃん」

 木材を退けながらイヤだと言う穂鷹に神奈は「はぁ?」と口を歪ませた。

「何言ってんだ、頭にタオル巻いて資材担ぐ姿が容易に想像できるぞ」
「あー似合う似合う」
「俐音ちゃんまで!?」
「何が不満、いいじゃんか。何しててもカッコいいって事だろ」
「……分かった、やるよ。やりますよ」

 渋々と立ち上がって伸びをする穂鷹に神奈が、ほらと木材を押し付けた。

「ていうかさ、なんでオレにこれぶつけたわけ?」
「ちょうどいい高さにあったんだよ、お前の背中が。この材料置く為に用意されてんのかと思ったくらい」
「いや、それあり得ないでしょ!」

 俐音は言い合いをしながら教室を出ていく二人に「まぁ、頑張れ」と聞こえないくらい小さな声をかけて見送った。




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