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「揃いも揃って自分勝手に動きやがって!」
「鬼頭に言われたらお終まいだな」
「増田なんて終わってしまえ!」
「そうよ、そうよ」

 どうやら俐音に加勢してくれているらしい理事長だが、この人は話をややこしくする代表のようなものだ。

「増田なんて枯れた人生送ってればいいのよ」
「お前もう帰れ!」
「何であんたに命令されなきゃいけないのよ。もう頭きたから帰る」

 ……結局帰るのか。
 理事長は回れ右のようにクルリと身を翻し、増田に背を向けて歩きだしたが、俐音達の前まで来ると「仲良くね」と言ってフワリと笑ってから出て行った。

 三人の真ん中にいる俐音の前で立ち止まったが、仲良くしろと言ったのはその両サイドに立つ神奈と穂鷹に対してだろう。

「あの人相変わらずだねぇ」
「疲れる……」

 神奈をここまで疲労させるなんて理事長はただ者ではない。

 もうヒールの音さえ聞こえないほど遠ざかったはずの理事長の存在感がまだ教室の中に漂っている。

 それほどまでに強烈な印象を残す水無瀬 和佐子が少し恐ろしかった。

「はい、お疲れさん」

 理事長の出て行ったドアを眺めていたら、どこか憔悴した様子の担任が手錠を外していた。

 やっと自由になった腕を見ると予想以上に赤くなっていて、自覚した途端にヒリヒリとした痛みが生まれる。

「お前ら痛くないの?」

 平然としている神奈と穂鷹の腕を持ち上げてみると少し擦れたような痕はあるものの、目立つものではない。

 比べるように自分の腕も並べてみると、その差は一目瞭然だ。

「うっわ、俐音ちゃん痛そ……」
「痛いよ。お前らが好き勝手腕振り回すから」
「じゃあ今度は俺が舐めてやろうか」
「すんな!」

 話ちゃんと聞いてたんじゃないか!
 掴んでいた神奈の腕を投げ捨てるようにして放す。

「おーい、そろそろ準備やれー」

 いつの間に移動したのか、また窓際のイスに座っている担任の声に周りを見ると、全員が作業を中断して俐音達を眺めていて、何だか気まずくなった俐音は二人を置いてさっさと床に敷かれた白い紙の所まで歩いた。


 今は違う作業に借り出されている彩が、下書きを書き終えてくれていたらしく、後は色をつけるだけになっていた。

 俐音は袖を捲ってペンキに手をかけようとしたら、横から伸びてきた手に掴まれて持ち上げられた。

「……赤いねぇ」
「痕、つきやすくて消えにくいんだよ」
「ごめんね?」

 穂鷹自身に痛みがあるかのように顔を歪ませてた。
 逆に俐音の方が大丈夫かと心配になる。

「何で穂鷹が謝ったりするんだよ」

 もう片方の手でパシンと穂鷹のおでこを叩く。



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