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 迷う事なく特別棟へと向かい、ドアをノックをして部屋に入った。

 するとやはり二人はここにいて、何食わぬ顔をしてなるべく音を立てないように背後から近づき手に持っていた手錠をかけた。

 カシャン、カシャン

 右に神奈、左に穂鷹。金属の硬質の音がして呆気なく二人の腕を捕らえた。

「何だこれ」
「手錠。ほら早く立ってドア開けて。私両手塞がってるんだから」
「自分でしたんだろうが……」

 二人を立たせ、右手でぐいぐいと神奈を押してドアを開けさせて外へ出た。

 歩く度に鎖同士が当たってカチャカチャと音を立てる。
 俐音は両腕とも二人のペースに合わせて勝手に振られているのが何だか不思議に思えた。

「……でさ、オレら何で繋がれてんの」
「そんなの全く教室に来ないお前ら連行するために決まってる。私だって増田に無理矢理やらされてんだからな。文句ならアイツに言ってくれ」

 チッと舌打ちする神奈を睨みつけこうなった経緯を話した。
 話終えた所で教室の前まで着き、今度は成田を押してドアを開けさせる。

 クラスメイト全員が文化祭の準備をしている中、窓際にパイプイスを寄せて悠然と座って寛いでいる担任を即座に目に留めた。

「おい、連れて来たぞ! さっさとこれ外せっ」

 手錠を見せ付けるように両手を持ち上げると、二人分の腕の重みが余分にかかって痛い。

「ご苦労さん。ついでに鬼頭のその俺に対する態度を改めたら外してやる」
「約束が違う。それに敬われたいならそれなりの教師を演じてみせろ」
「面倒くせぇな」

 ほんともう転職しろよ。
 そう言ってやろうとしたが、俐音の更に後ろから聞こえた声に口を噤んだ。

「あらあら、何だかとても楽しそうね」

 どこか艶のある声に振り返ってみれば、すぐ後ろには女性がいた。

 淡い茶色の長い髪を一つにまとめ、すっきりとしたスーツを着ている姿はいかにも仕事の出来るキャリアウーマンを思わせる。

 腕を組んだまま教室に入って来た女性の異様なまでの存在感に、クラス中が圧倒され、増田は苦い顔をした。

「理事長様がこんなとこウロチョロしてんのか」
「だって手錠で繋がれた生徒達が見えたから、それは面白い事があるだろうと思うじゃない。普通は後つけるでしょ」

 つけませんよ!
 咄嗟にツッコミを入れようとして、本能で言わない方がいいと我慢した俐音の言葉を代弁するように神奈が「しねぇよ」と小さく呟いた。

 それを耳敏く聞いた理事長が神奈の頬を容赦なく抓る。

「で、何しに来たんだよ」
「だから、教育現場にそぐわない行為に着手しようとしてる生徒とぜひ仲良くなってあげようと、この理事長様がわざわざ出向いてやったんじゃない」
「えらく上からだな」
「だって上だもの」
「あぁ、歳がな」
「あんた解雇するわよ」

 担任と理事長の言い合いの間ずっと放置されている俐音を始めとする生徒達は成り行きを見守るしか出来ない。



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