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「リンリン大丈夫!? 襲われてない!?」

 女だから大丈夫だろうと考えては甘過ぎたのではないか。
 いや、女だからこそ危険だったかもしれない。

 何時まで経っても帰ってこない俐音に想像はどんどんと悪い方へと向かい、これは様子を見に行かないと、と一人特別棟でぼんやりしていた緒方が慌てて寮まで来たのだ。

「あ、はい。なんかこんな感じで……」

 凄惨なほどに散らかった部屋の真ん中に座って壱都に抱きしめられている俐音が手を振る。

「よく分かんないけど……安心していいんだよね?」
「壱都先輩どうですか?」

 少し顔を上げて尋ねると、壱都は小さく頷く。
 こうやっている間も俐音を離そうとしない壱都を見て、緒方はガシガシと頭を掻いた。

「壱都、疲れてるんじゃないの」
「まず寝ます?」
「このまま……」
「どうしましょう緒方先輩」

 動こうとしない壱都に困った俐音が助けを求めるように見てきたが「知らないよ」と言って帰りたくなってきた。

 この間まで、俐音を懐かせようとあの手この手を使っていたはずなのに、これでは完全に壱都が俐音に懐いている。

「今日はもう寝なよ、明日学校来ればリンリンにベットリできるよ」
「それ言うならベッタリです。でも、そうですよ。寝てください。明日学校で、ね?」

 暫く考えてから、コクリと頷いた。
 そんな壱都をベッドに寝かせて部屋から出ようとした俐音は、呼び止められて振り向いた。

「あの絵、描き直す事にしたからあげられないんだ」
「じゃあ出来上がったら見せてください」
「分かった」

 「おやすみなさい」そう言って静かにドアを閉める。

「あの部屋片付けるの絶対手伝わされるよ」
「でしょうね……」

 数日後、早ければ明日には全員が借り出されて片付けをする羽目になるのは目に見えている。

 はぁと態とらしく溜め息を吐く緒方に、俐音は苦笑した。





 寮から出ると、ちょうど資材置き場から戻ってくる途中の小暮達に会った。

「あ! 俐音ちゃん良かったぁ。心配してたんだ」
「大丈夫、大丈夫」
「これでもか?」

 俐音の顎を掴んで顔を思い切り横向かせると、首にうっすらと赤い指の痕があるのが見えた。

「もう痛くない」
「そういう問題じゃないでしょ!?」

 穂鷹は俐音の首を見て、まるで自分に痛みが走ったように顔を歪める。

「うわぁ、これでよくイッチーと普通に喋ってたね」
「まぁ……癇癪には慣れてますんで」

 さっきの壱都とのやり取りをあまり深く突っ込まれたくない俐音は、早く帰りましょうと皆を促した。

「ところで鬼頭、眼鏡どうした?」
「め? あ、あー!!」

 小暮に言われるまで気付かなかったが、壱都に払い落とされて未だあの部屋のどこかに転がったままだ。

「ちょ、ちょっと取ってきます!」

 メガネがないと女だとバレるのではという脅迫観念のあるため、このまま帰るわけにはいかない。
 俐音は今出てきたばかりの寮に走って入っていった。




end



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