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 俐音の考えを肯定するように、福原は鼻で笑って「あり得ない」と呟いた。

「こんな事されたのに…なんで逃げないの」

 俐音の首を撫でると痛みが蘇ったのか目を細めたが、嫌がったりはしない。
 それが不可解だ。

 緒方達だって、一旦手が付けられなくなった福原からは逃げる。
 さっき来ていてたクラスメイトも、呆れて帰って行った。

 きっと俐音がここに来たのも、押し付けられたからだろう。

「……まだ聞いてないんです。答え」
「なに……」
「先輩の目、キレイですごい好きです。頭撫でられるのとか、目が合ったときに笑ってくれたり、あとくっついてくれるのも実は結構好き」

 所構わずされるのは困りますけど、と少しだけ笑った。

「先輩はずっと私の事嫌いで嘘吐いてただけでも、私は本当にすごく嬉しかったんです。だから、先輩が苦しいんだったら何かしてあげたい。もう一度言います」

 福原が身動ぎした拍子に何かが落ちた。
 俐音が手を上げて福原の前髪を横に流すと隠れていた目が顕になる。

「先輩、大丈夫ですか?」
「……ゃない、全然……大丈夫じゃない……」

 俐音の手を掴んで自分の目を隠すように当てた。
 そこから温かいものが手を滑って濡れる感覚があった。

「私に出来る事は?」
「ある……」

 妬ましかったのは本当。
 一緒にいると自分がいかに汚れているか知らされて、同じところまで引き摺り下ろしてやりたいと思った。

 だけど、嫌いなんかじゃなかった。そう思おうとしただけで。

 始めて会ったときに抱きしめたのも、いつもひっついているのも、触れていないと消えそうな危うさがあって、そうしないと自分の所に繋ぎとめておけない気がしたから。

 俐音に嫉妬すると同時に惹きつけられていた。
 夢を見たと泣く俐音に傍にいると言った、あれだって紛れも無く本心。

 手放したくないと思っているのは、むしろ福原の方かもしれない。

 俐音の上から退いた福原は、俐音を起き上がらせて抱きしめた。

「痛い思いさせてごめん。嫌いなんて言ってごめん。だから俺の前から消えたりしないで……俐音」

 俐音は肩に乗っている福原の顔を見ようとしたけど、俯いているので髪の毛しか見えない。

 表情は分からないけれど、柄になく照れているんじゃないだろうか、なんて思って笑いそうになった。

「いいですよ、壱都先輩」

 そう言って、いつも福原がやるように頭を撫でた。
 福原はそれ以上何も言ってこなかったけれど腕にさらに力を入れて抱き締めてきた。




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