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「そういえば、神奈は?」
「ああ、響なら理事長に呼び出されてる」

 ずっと人数が足りないような気がしていたが、資材置き場と寮が同じ方向なので小暮や穂鷹と一緒に歩いている途中に、ようやく思いついた。

 サボっているわけではなく、神奈は神奈で働かされていると分かれば、なんだ良かったと頷く。

「寮かぁ。彩について来てもらえれるんだったら良かったのに」
「また駒井?」
「またって何だ。やっぱりお前彩の事……」
「ちっがうよ! そうじゃなくてオレは」

 そこで穂鷹は口を閉ざした。小暮の視線に気付いたからだ。

「あ、悪い……。俺邪魔だな。先行ってる」
「小暮先輩?」

 穂鷹と俐音の言い合いを聞いていると、告白現場に居合わせてしまったような身の置場の無さを感じて、小暮は先に歩き出した。

「え、行っちゃったけど、なんで?」

 目の前にいる穂鷹と小暮の背中を交互に見て、俐音は不思議そうにしている。

 小暮の思った通り、穂鷹は今まさに勢いに任せて告白しそうになっていて、それを小暮に感づかれたのが恥ずかしくて手で絶対に赤くなっているだろう顔を隠した。

「穂鷹? どうした?」
「な、なんでもないから」

 一人、全く状況を理解していない俐音は穂鷹の顔を覗き込もうとしたが逃げられ、そうなると意地でも見たくなるもので、手を掴んで顔から剥がそうとした。

「ちょっと俐音ちゃん!」
「お前が逃げるからだろ」

 チャイムが鳴り、五限目が始まる時間だからか、寮へ続く道は他の生徒がいない。
 もしも見られていたなら、コントでもしているのだろうかと思われたに違いない。

 見ていたのは二人を良く見知った一人だけだった。

「お前ら何やってんだ」

 俐音達が来た方向から歩いて近づいてくる神奈にやっと気付いた二人は、その体勢のまま振り向いた。

「神奈こそ、こっちに何か用?」
「いや、理事長室出た所から様子のおかしい二人組が見えたから」
「不審人物みたいに言うな!」

 やっと穂鷹から手を離した俐音は、今度は神奈の後ろに回りこんで後ろから抱きついた。

「俐音ちゃん!?」
「神奈確保! コイツにも資材運び手伝わせるんだ!」
「あ、そういう事か」

 誰がするかと俐音を剥がそうとしたが、なかなか離れない。

「たまには体動かさないとお腹に贅肉が付いて……ない。あれ」
「付くわけないだろ。つーか触んな」
「俐音ちゃん脇腹! 弱点は脇腹だよ!」

 こうなってしまうと本来の目的を見失って気が済むまでじゃれ合うのはいつもの事だ。

 珍しく慌てる神奈に、悪戯心に火がついた俐音は穂鷹に神奈を押さえさせた。

「はははっ観念しろ神奈! ここが年貢の納め時だ!」
「お前、使い方間違って……」
「問答無用!」

 脇腹をくすぐるべく手を伸ばしかけたとき、隣を猛スピードで一人の生徒が駆け抜けて行った。

 校舎へと姿はすぐに消えたが、俐音はその方を目をぱちくりとさせながら見た。

「今のって彩だった……よな」

 走って来た方向から言って、一度寮に戻っていたらしい。

 もう授業開始のチャイムも鳴ったし急いでいたのだとしても、俐音達に目もくれなかったのは変だ。
 あれは、何かから逃げているようだった。

「鬼頭!」
「小暮先輩?」

 今度は小暮が走って俐音達の前まで来ると息を整えた。

「さっき誰かこっち来なかったか?」
「ああ、校舎に入って行きましたけど、どうしたんですか?」
「いや……俺の勘違いみたいだ」

 笑って誤魔化す小暮に、俐音は首を捻った。
 来なかったと答えたなら小暮の返事は理解できるが、来たと言ったのに一体何が勘違いなのだろう。

 だが小暮は「早く仕事を片付けてしまおう」と、話を打ち切った。
 ああそうか、とここまで来た目的を思い出して俐音も何も聞かない。

 彩の事も気になったが後回しにした。




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