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「今日は理事長というか生徒会に雑用頼まれたんだ。来月の文化祭の資材集めとかな」
「えー! なんで僕達がやんなきゃいけないのっ。役立たず生徒会の尻拭いなんてやってらんないよ!」

 生徒会という言葉に反応して露骨に嫌そうな顔をした。
 普段から他人のために動く事を嫌う傾向のある緒方だが、今日はいつもに増してやる気が見られない。

「じゃあ私が行ってきますよ」
「あ、いや……。鬼頭には別件で行って欲しい所があるから、それは俺と穂鷹で行く」
「別件?」

 小暮は言い難そうに少し躊躇ってから、申し訳なさそうに俐音を見る。

「ちょっと壱都の様子を見てきて欲しいんだ」

 言われて、二学期に入ってから福原を見ていない事に気付いた。
 まだ学校が始まって三日しか経っていないから、それほど気にしてはいなかった。
 特別棟に来なければ、学年が違う俐音と福原はなかなか会う事はない。

「福原先輩、体調崩してるんですか?」
「そうだったら困るからな、寮まで行ってきてくれないか」
「いいですけど、それだったら緒方先輩だって寮じゃ……」
「ムリ!」

 顔の前で手をクロスさせてバツを作る。
 福原に会うだけなのに、何故か嫌がる緒方が不思議で、その理由を問うように隣に座っている穂鷹を見る。

「あー……壱都先輩ってたまに引きこもっちゃうんだよ。そうなったら誰とも会おうとしないし、物凄い殺気立ってるし」
「殺気…福原先輩が!?」

 いつも笑っている印象しか持っていない俐音には、いまいちイメージが湧いてこない。

「リンリンはイッチーの本性知らないからねぇ」
「本性? ていうか誰にも会いたくないんだったら、放っておいた方がいいんじゃ……」
「やーそれがそうもいかんの。もう三日でしょ? そろそろ危険」

 殺気立っている時点で十分危険だと思うが、それ以上に何かあるらしい。
 そんな状態の福原に会う気がどんどんと失せてゆく。

「前に一週間くらい禄に食事もせずに部屋にこもって軽い栄養失調気味になった事があった」
「えぇ!?」
「それとかねぇ、突然行方不明になったと思ったら街ふらふらしてたり。その間ナンパしてきたおんな……」
「わーっ、もういいです! 聞きたくない!」

 ガラガラと音を立てて俐音の福原像が崩れていきそうで、耳をきつく塞いだ。
 どうしてか騙されたような、泣きたい気分になった。

「と、とにかく!様子を見てくればいいんですよね」
「うん。死にそうになってたら救急車ね。元気そうなら絶対近づかない方が身のためだよ」

 アドバイスはくれるものの、緒方はやはり付いて来てはくれないらしい。
 どうやらよっぽど過去に、ひどい目に合わされたようだ。

 正直、行きたくなくなってしまったので、どうにかして回避する方法は無いだろうかと考え、寮なのだから管理人がいるじゃないかと思いついた。

 だが、緒方に「ダメだよ! 気の良いおじいちゃんなの。殺気に中てられて死んじゃう!」と言われてしまえばその案は消すしかない。

 なら穂鷹や小暮が行かないのはどうしてかと問えば「さすがに女の子に手を上げる事はしないだろうから、鬼頭に行ってもらいたい」と言う。

 本当に、俐音の知っている福原と同一人物の話をしているのだろうかと疑いたくなってくる内容だ。

 だが聞く限り、俐音が行くのがやはり妥当であるようにも思えた。




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