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 だが、実際には穂鷹は罪悪感などは感じていない。
 申し訳ないなと思わなくも無いが、それもお互い様だと片付けられる範囲内でだ。

 そんな穂鷹の思いを見透かしたのか、俐音は「だからお前は馬鹿なんだ」と更に罵声を浴びせてきた。

「だったら何で私を引き止めたんだよ」
「それはメガネ……」
「そんなのついでだろ」

 確かに、帰りたがってる俐音をわざわざ引き止めた時、メガネの事なんて頭に無かった。
 かといって他に用事や行きたいところがあったわけじゃない。

 でも一緒にいたかった。

「あ」
「仕方ないから一日付き合ってやってんのに、自覚なかったのかよ」
「あはは、ごめん」

 一人になったらさっきの事ばかり考えて女の子たちに対する罪悪感でいっぱいになってしまいそうだから、気晴らしに俐音に一緒にいてもらいたかった。

 一度気づけばなんて子どもじみた理由なんだろうと笑ってしまう。

「あーもう、ムリして笑うな」

 ぺちりと良い音をさせて穂鷹の額を叩きつける。
 でもやはり俐音の表情から気遣ってくれいてるらしいことが伺えた。

「ちゃんと笑ってるオレってカッコいいんだよね?」
「あれは売り言葉に買い言葉だ。気にするな」
「えーもう、俐音ちゃんったらテレちゃっ……ぎゃーごめんなさいっ!」

 すぅーと目が据わって拳を握り締める俐音に平謝り。
 そうしないとホントに殴られてしまうからだ。
 情け容赦なんて言葉を俐音は知らない。

「バーカ、バーカ!」
「俐音ちゃんひどいー」
「家に帰らないだけ有難いと思いやがれ。ほら、次こそ穂鷹が行くとこ考えろよ!」
「どこでもいいよ」

 俐音は穂鷹の言葉にムッと顔を顰めたけれど、穂鷹はどこでも良かった。
 一緒にいてくれるなら。
 さっき俐音に言われて、他にも気づいた事がある。


 一緒にいてもらうなら俐音ちゃんがいい。

 神奈や緒方達じゃなく、今こうして俐音が傍にいる事実がとても意味のある事のように思える。

 俐音はあまり表情に出さないけれど、それなりに楽しんでいる事とか、真剣に穂鷹の事を考えてくれている事。

 全部ではないにしろ小さな感情の変化に気が付くくらいに自分は彼女を見ていたのだ。
 ここまで思い巡らせば、自ずとその先が見えてくる。

 自分は俐音が好きなのだと。

 穂鷹が黙り込んだのは次の行き先を考えているからだと思い、ジッと言葉を待つ俐音から、つけたままになっていたメガネを取り上げる。

「ねぇ、今日はとことん付き合ってくれる?」
「……だから! そう言ってるだろ!」
「うん。ありがとう」

 お願いは大抵断られる。でも本気で困っている時は絶対に見放したりしない。
 解り辛いけれど、それが俐音の優しさだ。

「俐音ちゃん大好き!」
「あーそうかい」

 気持ちに気付いてすぐに告白できるほど度胸は据わっていない。
 だからふざけるように言えば、俐音も取り合おうとしなかった。

 今はまだ取り敢えずこのままがいい。

 でも学校が始まって、また毎日会うようになったら、これまでとはちょっと違った学校生活になりそうだ。

 そう考えれば夏休みが明けるのが待ち遠しいと思えた。



end




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