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「で、映画館で初めて観た映画の感想は?」
「んーあの女優はセーラー服を着ていい年齢だったのかな」

 真面目くさった顔で言った第一声がそれ?
 二時間以上もスクリーンに噛り付いていたのは何だったんだと言いたくなる感想だ。

「そうじゃなくて、俺が訊いたのは内容についてなんだけど」
「内容はよくわかんない。穂鷹は?」
「うーん、まぁあんなもんだよね」

 どんなものなんだか、と自嘲しながら曖昧に言葉を濁して誤魔化した。
 訊かれてから穂鷹はほとんど映画を観ていなかった事実に行き着いた。

 ずっと隣ばかり気にしてたんだ。

俐音は「ふーん」と素っ気無い返事をして空になった紙コップを捨てた。

「じゃあ次こそメガネ屋に行きますか」
「……何?」

 俐音に向けて穂鷹が手を差し出したのだ。
 意味が分からなくて首を傾げた。

「手、繋ご?」
「やだよ暑い……」
「大丈夫。俐音ちゃんの態度は十分冷たいよ!」
「うるさいなっ」

 俐音は目の前にある手を叩き落してさっさと歩き出してしまった。

 そのまま一人で映画館の外まで出て行ったから慌てて追いかけると、ドアの横で穂鷹を待っていた。

 待っていてくれたのが嬉しくてお礼を言うと「メガネ屋の場所なんて知らないから」と言う。
 その理由が実に俐音らしくて吹き出してしまい、今度は思い切り腕を拳で殴られた。





 色んな型のメガネを次々とかけては鏡で確認していく。
 俐音は視力がいいから、度が全く入っていない伊達だ。
 本当に必要なのかと思ったのだが、菊に絶対にかけろと言われているらしい。

「お前ほんとに良かったの?」

 以前使っていた物と同じようなフレームのメガネをかけて、見慣れた姿になった俐音が鏡越しに穂鷹を見据えた。

「へ、何が?」
「あの女の子たち。こんな炎天下に放置して」

 既にその存在を忘れかけていた女の子達の事を思い出して、顔が強張るのが自分でも感じられた。

「まぁ……ちょっと可哀想だったけど、あそこに呼び出してきたのはあっちだしね。今頃はすっごく怒ってるだろうけど、すぐオレの事なんて忘れるよ」
「アホか。そうじゃなくて私が言ってるのはお前が大丈夫かって事」
「オレ?」

 俐音はふぅと息を吐くと、穂鷹に向き直った。
 真正面から見つめてくる瞳は真剣で、言葉では罵っていたが幾らかの心配の色が見て取れた。

「穂鷹は馬鹿だから、あの子達が何が目的で近づいてきたか知ってても突き放したことに対して罪悪感持ってるんだろ」

 それがあたかも悪い事かのように俐音は罵った。



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